女性主導から自分のタイミングへ

「子どもを持つタイミングは、女性の年齢、すなわち卵子の年齢という要素が大きく捉えられ、女性主導なところがありました。現在も女性のほうが、自分が妊娠・出産できる年齢について焦りを感じ、“早く子どもをつくりたい”と切り出して妊活が始まるカップルは多い。それが今、男性も人生における“自分のタイミング”を意識するようになっている。精子凍結は、まさにそうした意識の表れ。“ベストなタイミングでプライベートもコントロールしたい”という男性の意識の変化を感じます」(香川さん)

 例えば、香川さんの元に相談に訪れた実業家の男性で、「子どもがほしいから、そろそろ結婚したい」と結婚を迫る女性への“免罪符”として精子凍結に踏み切った人がいた。二人の関係性への疑問はさておき、出産を視野に入れた女性から「早いうちに結婚を」と切り出されたとき、「僕は精子を凍結しているから、そんなに慌てなくて大丈夫」と、結婚を先延ばしにする免罪符として、一定の機能を果たしたらしい。

 また、別のクリニックでは、婚姻関係にある相手との間には子どもはいないが、次のパートナーとの間で子どもを持つことを踏まえ、精子凍結に踏み切った例もあったという。ほかにも、起業を控えており、「事業が軌道に乗るまで当面の間は、子どもは考えられない」という20代の男性が精子凍結する例もあった。また、自分はまだ子どもは考えられないが、彼女がほしがっており、互いのタイミングが折り合わないことから、将来への備えとして精子凍結した男性もいる。

「従来は“私が産めるタイミングで、あなたも協力して”という流れになりがちだった妊娠・出産ですが、実は男性にも自分で決めたいタイミングがある。結婚は相手の年齢で決めるものではなく、どちらかが折れないといけないものでもない。精子を保存する技術は、そうした意味でも、男性の保険にもなりうるのかもしれません」(同)

(ライター 松岡かすみ)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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