精子を凍結保管する様子(はらメディカルクリニック提供)

20代から踏み切るのは「真っ当な判断」

 年代は、20代が4割、30代が3割、40代が2割と、圧倒的に若い世代が多い。精子凍結に至る背景として、「知り合いが不妊治療を経験していて、自分も不安になった」「将来的には子どもがほしいが、パートナーがいつできるかわからない」「すぐに結婚する予定がないので保険的な意味合いで」などの声が聞かれるという。

「不妊治療経験者の中心層が30代であることを踏まえると、精子凍結を選択する人はそれより少し若い世代という印象です。不妊治療が広がり、治療をスタートする患者さんも年齢の若い人が増えてきました。こうしたことを受け、“将来に備えて若いうちに凍結を”と考える人が増えているのかもしれません」(荒井さん)

 精子凍結、卵子凍結に関するカウンセリングなどを行う香川則子さん(プリンセスバンク)は、「若い世代ほどコスパを重視する傾向がある」と話す。20代と若いうちに精子凍結に踏み切るのも、「コスパを考えると、真っ当な判断」だと頷く。

20人に1人が男性不妊症

 2022年度に発表された厚生労働省の調査(不妊治療を受けやすい休暇制度等環境整備事業)によれば、日本では、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%で、夫婦全体の約2.6組に1組の割合だ。実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は22.7%で、夫婦全体の約4.4組に1組とされる。また、WHOの統計(1996年)によれば、不妊症の原因のうち、48%は男性が関与していることが明らかになっている(男性原因が24%、男女両方の原因が24%)。

「女性の卵子ほど加齢の影響は受けないものの、精液の状態も年齢とともに悪化します」と話すのは、男性不妊治療を専門とする辻村晃教授(順天堂大学医学部付属浦安病院泌尿器科)だ。

 現在、男性の約20人に1人が男性不妊症であると推定されている。男性不妊の原因は、①睾丸で精子をうまく作れない、あるいは精子の質が悪い「造精機能障害」②精子は睾丸で問題なく作られているものの、うまく出てこない「精路通過障害」③性行為そのものがうまくできない「性機能障害」――の大きく3つに分類される。①が最も多く、8割近くに上るとされている。

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精子凍結は保険的な意味合い