※写真はイメージです(gettyimages)

 勉強でもスポーツでも、パフォーマンスを上げるためには、努力が不可欠だ。しかし、どんなに野球の練習をしたところで、誰もが長嶋茂雄になれるわけではない。何かを学び、身につけるという点は同じなのに、なぜ勉強が得意な運動音痴が生まれるのか。その理由は、両者の上達メカニズムにおける根本的な違いにあった。スポーツドクターが医学的背景を根拠に「パフォーマンスとはなにか」を紐解く。本稿は、二重作拓也『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』(星海社)の一部を抜粋・編集したものです。

一流のパフォーマンスを視ることは世界で最高の教育になる

 脳には他者のパフォーマンスを視ると活性化する細胞があります。その名は、ミラーニューロン。「自分はその動きをやっていないにもかかわらず、他人の動きを視た時に活性化する神経細胞」のことで、「行動を鏡のようにうつす」ところから名付けられました。「誰かがあくびをしたら、つられて思わず自分もあくびをしてしまう」ことがありますが、これもミラーニューロンがあくびをして、実際の動きにも反映されたと考えられます。ストリートでカッコいいダンスを目にすれば脳もカッコいいダンスを、バスケの試合会場で芸術的なダンクシュートを目にすれば脳もダンクシュートを、ライヴ会場で超絶ギターソロを目の当たりにすれば脳もギターソロを行っている、というわけです。

 他者のパフォーマンスを脳にインストールするミラーニューロン。「学ぶ、は“真似ぶ”からきた」と言われますが、ミラーニューロンの発見は、この表現を裏付ける科学的根拠だと考えられます。ですから「よく視て学ぶ」は脳機能の面からも理に適った方法です。

“キング・オブ・ポップ”と称されるマイケル・ジャクソンは、子供の頃からステージ脇で他のパフォーマーの動きをじっと視てパフォーマンスを学んだ、というエピソードがあり、「世界で最高の教育とは、その道を極めた人の働く姿を見ることだ」と語っています。一流のパフォーマーは、一流の動きのコレクターでもあるのでしょう。

 現地に赴く、ライヴや公演を体験する、優れたパフォーマーの手ほどきを受ける、場に飛び込むなど、「全身で浴するリアル体験」は、これからの時代ますます大きなパフォーマンスの差となるでしょう。

「勉強」と「スポーツ」上達における 両者の根本的な違いとは?

「勉強はできるけど、スポーツは全然ダメなんです」「朝から夜まで野球ばっかり、あの情熱を少しでも勉強に向けてくれないかな」なんて会話が聞かれることがあります。たしかに何かを学び、身に付ける、という意味では、いわゆる勉強も、スポーツやパフォーマンスなどの運動も、人の能力や可能性を拡大していく行為です。その一方で、学習における違いもあります。その根底にあるのは「言語化できる/できない」の差です。

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