うちだ・ゆき/1995年、NHK入局。99年、制作局ドラマ番組部に。「カーネーション」プロデューサー、「アシガール」「スカーレット」制作統括など

 大河ドラマ光る君へ」が話題になっているが、AERAは制作統括・内田ゆきチーフプロデューサーにインタビュー。「光る君へ」の思いやこだわりについて聞いた。AERA2024年2月26日号より。

*  *  *

「光る君へ」の紫式部(まひろ)は、従来の「引っ込み思案で変わり者の文学少女」といった紫式部像よりずっと強く、意志的な人だと思います。あれだけの作品を書いた人物です。自分はどう生きていくのか、何かを生み出せるのか。自分をかえりみる目を持つ女性だったはずです。まだ少女のまひろですが、そういう面が徐々に見えてきます。

 紫式部の父親が「おまえが男だったら」と言うのは有名なエピソードです。何事かをなさねばと思う女性にとって打ち破るべきものの一つが、父性の束縛です。ヒロインの成長譚としての“朝ドラ”の多くが描いてきたことであり、まひろにとっても、父との関係性の変化は重要な要素となっています。

 同じく主人公は女性ですが、朝ドラとは一線を画さねばと思っています。朝ドラは非常に極端に言うなら、小さな世界が書いてあるもの。ヒロイン個人の生き様です。それ自体生半可なことではありませんが、それだけでは大河になりません。社会がどう動き、人々にどう影響するのか。抗いがたい時代の激しいうねりの中で生き抜く主人公が、きちんと見えてこなくてはならないと思っています。

 平安貴族の女性は生き方にある種の制限がかかってはいました。しかし同時に史料などから、男女のありようが今よりおおらかだと考えられます。母になったら母としてのみ生きよ、という規範にまだ縛られていないと感じます。

 平安は武力による争いのない歴史上稀有な時代で、人々の望みは恋愛や出世の成功、日々の生活の安寧など今と変わりません。そのことを大勢の登場人物を介してわかっていただけたらいいなと思います。

 視聴率は高いに越したことはないですが、多様な視聴方法もある昨今、あまり気にしていません。従来の大河ドラマファンに納得いただけるダイナミックさを忘れず、雅な雰囲気などを期待して新たに来てくださる方も大歓迎です。

「光る君へ」(写真/NHK提供)

AERA 2024年2月26日号より