がん研有明病院 肝胆膵外科部長 髙橋 祐 医師 写真/上田泰世(写真映像部)

 医師もひとりの人。なぜ医の道を選び、どう修練を積み、今何を目指しているのか。人それぞれ経験や思いは異なる。しかし、時間に限りがある診療の現場では、医師の人となりや胸の内を詳しく聞くことは難しい。そこで週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2024』では、最前線で活躍する注目の外科医6人をインタビューした。本記事では肝胆膵がん手術の注目外科医、がん研有明病院 肝胆膵外科部長 髙橋 祐 医師を紹介する。

【図表】がん研有明病院肝胆膵外科部長の髙橋祐医師の略歴はこちら

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 肝胆膵がんにおいて、トップレベルの年間約450件の手術数を誇るがん研有明病院。その肝胆膵外科チームを率いるのが、髙橋祐医師だ。肝胆膵がんの手術は、消化器がんの中でも特に難度が高く、命に関わる合併症が起きやすい。

 「国立がん研究センターの研修で外科6科を回り、一番大変ではありましたが、最もやりがいを感じられたのが、肝胆膵外科でした」

 所属した名古屋大学腫瘍外科が、肝胆膵外科を専門としていたことも大きかった。外科医になって最初に掲げた目標が、膵がんの代表的な手術「膵頭十二指腸切除」を1人でできるようになること。膵頭部などを切除したのち、膵臓や胆管を再建する大がかりな手術で、8時間程度かかる。初めてこの手術を執刀したのは、国立がん研究センター中央病院にチーフレジデントとして勤務していた時期だ。

 「いざ自分がやると手が思い通りに動かなくて。向かい側に立つ指導医に、最初から最後まで怒られっぱなしでした」

 チーフレジデントは若手医師のリーダー的存在。1年間は毎日手術に参加した。

 「この1年間で日本で最も多くの時間、肝胆膵がんの手術に参加したと自負しています」

 卒後10年が経ち、名古屋大学腫瘍外科に戻る。胆道がんの一つ「肝門部胆管がん」の手術成績は同科が世界一。肝臓を大きく切除し、胆管や血管を再建する極めて難しい手術で、同科の前々教授・二村雄次医師、前教授・梛野(なぎの)正人医師はこの手術のパイオニアだ。

 「できる気になって大学に戻りましたが、お二人や医局の先輩方を見て何もわかっていなかったことを痛感しました。診断から解剖、手術、術後管理、すべてにおいて、歴史を感じました。その後は先輩方についていこうと、必死でした。今も二人の師匠がやってきたことをまねしているだけかもしれません」

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合併症を防ぐには、各分野の専門科の力が欠かせない