砂崎:はい。つまり見せちゃいけないけれども、万が一見えたときには恥ずかしくない姿、というのが基本です。その反対に髪は、ある意味いつでも見せていいところだったので、誰にでも遠慮なく見せてましたし、髪の手入れにはとても気を使っていました。マスクを着けるようになってから、みなさんアイメイクに気合が入るようになったじゃないですか。あれとも同じですよね。ちなみに美しい髪というのは、真っ黒で量の多い髪のこと。要は栄養や手入れが行き届いた、お金持ちの人の髪が美しかったんです。
──お話を聞いていると、ドラマなどのシーンとはかなり違いますね。俳優さんの顔を隠していたら、ドラマにならないからでしょう。
装束は女房の手作り
砂崎:テレビに出てくる十二単も、あれは儀式装束で、生活するためのものとは違うと私は考えています。
承香院:服のことで言わせていただくと、私も同じです。テレビや映画に出てくる十二単ほど、美しい物を皆が着ていたわけではありません。平安の装束はすべて女房の手作り。私もそれにならって、ほとんどの装束を手作りしています。そうなると、縫い目はミシンのように揃っていないし、襟の大きさもまちまちで、よくある十二単の襟のように、規則的に揃っていたということはないと思います。
──承香院さんは毎日着てみて、消耗の具合はどうですか?
承香院:やはり膝をついて歩くと、そこがすり切れてきますし、着替えて洗濯するということもないので、なかなか生活感があったと思います。夢が壊れるのであまり言いたくはないですが(笑)。
(ライター・福光恵)
※AERA 2024年1月15日号より抜粋