「先生はこんなことじゃ死なない」
10月末には退院の予定だったが、腎臓の検査結果が悪く、入院期間を延長することになったという。
「病院食が口にあわず、食事を十分に摂れていなかったんです。それから、脱水症状も起きていました。なので、『先生、これじゃ退院できないから頑張って食べようね』と励ましていたところで。その数日後に脳から出血したんです」
脳梗塞も起こし、起き上がることができず、耳は聴こえるが話せない状態になった。前日まで会話もできていたが、それもできなくなった。医師からは「年を越せる状況ではない」と告げられたという。
そして、11月9日、寂聴さんは、親族や瀬尾さんらスタッフに見守られながら、この世を去った。
瀬尾さんは最後まで「必ず良くなる」と信じていたという。それは、これまでも寂聴さんが大病を患いながらも、そこから立ち直ってきた姿を間近で見てきたからだ。
寂聴さんは、14年には胆のうがんが見つかり内視鏡手術を、さらに、17年には心臓と右脚のカテーテル手術を受けている。だが、「そのたびに元気に回復していました」と瀬尾さんは言う。
「私は瀬戸内が88歳のときに初めて会ったのですが、90歳になってからは、2年に1度ぐらい、大病を繰り返してたんです。でも、瀬戸内は不死身というか、そのたびに必ずよみがえってきたので、今回もそうだと思っていたんです。でも、お医者さんに『もって1週間。元気に見えるけど、やはり99歳の体です』と言われてから、感情が激しく揺さぶられる日々でした。絶望的な気分になるときもあれば、『先生はこんなことじゃ死なない』と奮い立つときもありました」