ちなみに、これもまた「文章や台詞を他言語に訳す行為」を表す「翻訳」という言葉に関しては、「通訳」のように「翻訳をする人」を示す意味は含まれていません。なので、もし一平さんが翻訳業で成功しても、一平さん自身が「水原翻訳」とは呼ばれないでしょう。
本来、通訳や翻訳は裏方の仕事。おそらく一平さんのように、「通訳者」が表舞台の主要人物になったケースは少なくとも日本では初めてであり、かつて来日するハリウッドスターの通訳を一手に引き受け、主要洋画のほとんどの日本語字幕を手がけていた戸田奈津子さんですら辿り着けなかった「通訳界の新境地」と言えるかもしれません。
いずれにしても、この「水原通訳」という呼称は、この先も使われ続け、いずれ自然な響きとして根付いていくのでしょう。かつて私が冗談半分で付けた「女装家」なんて造語を、あっという間に浸透させた、それがメディアと世間の伝播力です。
今、手元にある記事の見出しには『大谷とアリゾナに向かった水原通訳機内からの動画に臨場感感謝投稿』とあります。どうやら文字数節約云々ではなく、まずは書き手の国語力の低さが問題のようです。「臨場感 感謝投稿」と漢字を7連続で並べてしまうセンス。まったく理解できません。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2023年4月7日号
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