タイミングが取れない、性交にストレスがある、育児で時間が取りにくいなど、シリンジ法に至る過程にはさまざまな葛藤がある(撮影/植田真紗美)
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 今、セックスを伴わない妊活が広がっている。本格的な不妊治療を始める前のステップとして、専用器具を用いて家庭でできる妊活だ。共働き世帯の増加や不妊治療の浸透とともに変化する、イマドキの妊活に迫った。AERA 2024年2月19日号より。

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 晩婚化、晩産化が加速する昨今、不妊治療が広く浸透して久しい。厚生労働省の人口動態統計によれば、2020年の日本の平均初婚年齢は男性が31.0歳、女性が29.4歳。結婚から数年経ち、「そろそろ子どもを」と考え始める年齢が30代半ば以降ということも少なくない。さらに、国立社会保障・人口問題研究所の「21年社会保障・人口問題基本調査」によれば、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%と、夫婦全体の約2.6組に1組に上る。

 一般的に、不妊治療のステップとされるのが、(1)排卵のタイミングを狙って性交するタイミング法、(2)人工授精、(3)体外受精、(4)顕微授精だ。(2)以降は、性交を伴わない方法になる。シリコン製のカテーテル(医療用の管)とシリンジ(注射器)を用いて、精液を膣内に注入するシリンジ法は、主に(1)のタイミング法に沿って行われる方法で、「妊娠の確率が高い日にタイミングが取れない」「射精までうまくいかない」「セックスがしんどい」などの理由による性交に代わる手段として、ここ数年でじわりと広がり始めている。

「まさかここまで売れるとは、というのが正直な感想です」

 こう話すのは、国内のシリンジ法キット販売の先駆けで、16年の発売当初からシェアトップを誇る「プレメントシリンジ」の片桐萌さん(オンリースタイル)。商品開発の背景は、「家で手軽に人工授精的なものができたらいいのに」とこぼした同社社長の知人の一言だった。「性行為が苦手だが、妊娠はしたい」「自宅で性交に代わって妊活できる手段があれば」という需要が存在すると察し、一般医療機器として独自に商品を開発。痛みを感じやすい人でも使用しやすいよう、サイズや質感にこだわった。

 価格は10回分(10本)のセット販売で税込み6700円。なお、不妊治療クリニックなどで行われる人工授精は、22年4月から保険適用になり、1回約1万5千円前後が一般的だ。同社の商品は、発売後、順調に売り上げがアップし、2年前からはひと月で約2千万円を売り上げるようになった。好調な市場に目をつけ、ここ数年で競合メーカーも増えている。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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