同作は、配信から2週間足らずで、視聴時間が2億8千万時間を超えるロケットスタートを切った。英語シリーズ作品の週間グローバルトップ10では1位を飾り、日本を含む世界93カ国でトップ10入り。続編の制作も決定している。
かつて実写化といえば、原作の魅力を踏みにじったり、期待を大きく下回ったりと酷評されることも多かった。だが近年は、実写作品のヒット作が続いている。24年夏にシリーズ4作目の公開を控える「キングダム」や、あるシーンを9割撮り終えた後に再撮影したというNetflixシリーズ「幽☆遊☆白書」など、劇場・配信ともに漫画原作の実写化の勢いが目立つ。
アニメーションと実写映像を比較分析した『映像表現革命時代の映画論』の著書がある杉本穂高さんは、2010年以前と以後とでヒットする実写化の条件が大きく変わったと指摘する。
「00年代の実写化を振り返ると、原作を再現することに今ほどこだわっていない作品も多くありました。たとえば、『ドラゴンヘッド』(03年)や『どろろ』(07年)は、あの原作の素晴らしさに対して、どうして……という仕上がりでした」
もちろん、すべての作品がそうだったわけではない。藤原竜也と松山ケンイチが演じた「デスノート the Last name」(06年)は、二人の演技はもちろん、CGで再現された死に神や世界観がマッチしていると原作ファンからも評判が高かった。だが、首をひねる作品も多かった。それが、10年代から少しずつ変わり始めたという。
背景には、SNSなどでファンの声が可視化されるようになったことがあるという。
「大根仁監督の『モテキ』(11年)は、原作の魅力を引き出したうえで実写化作品としてもおもしろいという評価がされるようになりました」
なかでも、杉本さんが「実写化作品のエポックメイキングだ」と見ているのは、佐藤健が主演を務める「るろうに剣心」だ。12年に公開されてから、映画化も計5作まで続くヒットシリーズになった。
生身の人間が持つ迫力
「アクション映画において、『るろ剣』が果たした役割はとても大きい。漫画ならではのアクションを生身の人間がどう表現すべきかを突き詰めて考えている」
アクション作品では、作品全体を統括する監督のほかに、アクションを組み立てる監督も起用する。いい作品になるかどうかは、このアクション監督の手腕が大きく関わってくるという。
「その点、『るろ剣』は日本人として初めて台湾の金馬奨最優秀アクション監督賞を受賞した谷垣健治さんがアクション監督を担っています。経験も豊富で、香港仕込みのスピーディーなアクションと刀を持って戦う日本のちゃんばら要素をうまく融合させ、新しいスタイルのアクションを作り上げました」
杉本さんは、「生身の人間の迫力」こそ実写化の醍醐味だと指摘する。
「3DCGやVFXも素晴らしい技術ですが、アニメや漫画にはない実写の強みは、生身の人間で頑張ること。『るろ剣』はその姿勢が優れていました」