政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
* * *
イギリス、イタリアと共同開発を進めている次期戦闘機および防衛装備品の第三国への輸出をめぐり、公明党の山口那津男代表は「議論が尽くされておらず、国民の理解が得られたという状況に至っていない」と述べました。正論です。山口代表が「共同開発を進めることを決めた際は完成品を輸出しないという前提だったが、きのうの岸田総理大臣の答弁には『完成品の第三国移転を含め』という文言が入っていた」というように、国会での議論すらなされていません。自民党の一部の人たちからは公明党との連立を解消すべきという声もあがっています。
2022年に防衛装備移転三原則の変更がありましたが、さすがに殺傷武器の輸出は禁じていました。自民党という党の屋台骨が揺らぐ金権問題が問われている時に、密室の決定だけで戦後の防衛政策の根幹を変えようとしているのですから、拙速の誹(そし)りは免れないはずです。
さらに気になるのは、今回の日米の台湾海峡有事の軍事演習で、初めて中国を「仮想敵国」と明示したことです。台湾の総統選挙と立法院の選挙から透けて見えるのは、危機をうまく管理する現状維持政策こそ、台湾国民の大方のコンセンサスだということです。にもかかわらず、中国を「仮想敵国」とみなしたのは、北京政府とことを構えるというシグナルになるはずです。本来なら日本には、台湾と中国のどちらかが一方的に現状維持の変更に突き進む動きにブレーキをかける役割があるはずなのに、中国を「仮想敵国」と見なすことで中国への外交的な働きかけの可能性を自ら閉ざそうとしています。
いま必要なのは、防衛装備移転の問題点を洗い直し、その是非について国民の判断を仰ぐことです。そのためには、国会での重要案件として与野党で議論を尽くす必要があります。防衛政策の重要な方針転換を限られた議員たちの密室の議論だけで決めてしまえば、国民は何がどう変わったのか、なぜ変わったのか、知る機会もないままに終わってしまいかねません。自分たちの政党が国民の重大な不信の的になっていることを考えれば、もっと謙虚な対応が必要なはずです。
※AERA 2024年2月19日号