主人公プリシラは何から何までエルビス色に染まっていく。陸軍の兵士で西ドイツに赴任していたエルビスは礼儀正しく彼女の両親に挨拶し、父は戸惑いながらも娘との交際を認める。
パンナムのファーストクラスでアメリカに渡り、メンフィスに身を寄せるプリシラ。エルビスの邸宅「グレースランド」は夢の国だった。クルマ、家具、アクセサリーは当時のアメリカの富を象徴し、取り巻きとのパーティはプールサイド、音楽はジュークボックスから。
ノスタルジックな意匠にはソフィア・コッポラの美学が惜しげもなく反映されているが、彼女の視線はそこだけにとどまらない。いつの間にかレンズは幼妻プリシラの冷静な視線と同化し、刹那を生きるロックスターの不安と絶望を浮き彫りにしていた。
プリシラは「不思議の国」に迷い込んだ「アリス」になり、菓子のような家に住むが、菓子はしょせん菓子。主食ではない。鼻にかかったエルビスの甘い声はケーキにまぶされた白砂糖のようで、その白さは次第にエルビスを破滅に導くドラッグの色を象徴しているかのように思えた。