かつては保険診療の対象になるものは、いわゆる銀歯と呼ばれるかぶせものだけでした。正式には「金銀パラジウム合金」と呼ばれるもので、壊れにくく、安価な点がメリットでした。しかし、数年前に「CAD/CAM冠」という、プラスチックと陶器の材料として知られるセラミックが混ざった、白い「ハイブリッドセラミック」が追加されました。保険診療ができる条件を満たした場合、こちらを選ぶ人が圧倒的に多くなっています。なお、CAD/CAM冠は、患者さんの歯型のデータをコンピューターに入れたものをデータとし、CAD/CAM で削り出したかぶせものです。

 また、自費診療のかぶせものでは金属の外側にセラミックを貼り付けた「メタルボンドクラウン」、内側も外側もすべてセラミックで作られた「オールセラミックスクラウン」などがあります。オールセラミックスクラウンは1本「10万円前後」としている歯科医院が多いです。審美性が高く、見た目が本物の歯にそっくりということから、人気があります。

 ただし、セラミックは陶器の材料であることからわかるように、硬いので、強い力によって割れやすいという特徴があります。このため、セラミックを含むかぶせものは、歯ぎしりで壊れるリスクがあるのです。

 なお、このセラミックの欠点を補うものとして、耐久性が高いジルコニウムを使ったジルコニアクラウンもあります。ジルコニアは「白い金属」ともいわれ、確かにじょうぶです。ただし割れる確率はゼロではありません。私の患者さんで、歯ぎしりがひどい人は奥歯にジルコニアクラウンを入れましたが、3年ほどたったころ、割れてしまいました。

 歯科医院ではこのように自費で入れたかぶせものが壊れた時のために、保証制度を設けているところが多いです。一般的なのは10年保証で、最初の3年間は何が原因で壊れても、無償で作り直しが可能。その後は4年目、4割負担。5年目、5割負担……となり、10年目からは、全額負担に戻るというものです。

 とはいえ、短期間で壊れてしまうと予想ができている場合、すすめるわけにはいきません。私は患者さんの口の中を見て、歯ぎしりがひどい場合など割れるリスクが高い場合は、セラミックやジルコニアではなく、耐久性が高いゴールド(金)など、金属のかぶせものを推奨しています。

 それでも、「わかりました。でも、壊れてもかまわないから、白い歯にしてください」という人が多く、悩ましいところです。

 もう一つ、かぶせものが割れるのを防ぐ方法としては、歯ぎしり防止用のマウスピースがあります。歯列を透明のレジンで覆うことで、歯ぎしりをしても力が直接、歯にかからないようにできるので、100%とはいきませんが、かぶせものを守ることができます。

 アメリカでは審美性の向上を目的に、上下すべての歯にセラミックなどのかぶせものをする、「全顎的治療」をする人がけっこういますが、そのような患者さんに対して、歯ぎしり防止用のマウスピースを処方するのが一般的です。これは「マウスピースをしない人には、かぶせものは入れませんよ」ということでもあり、かぶせものが割れたときのトラブルをできるだけ防ぎたい、という意図が感じられます。訴訟大国のアメリカならでは、といえるかもしれません。

 日本ではマウスピースを無理にすすめることはしていませんが、このマウスピースはそもそも、歯ぎしり対策としてあるものです。毎晩、家族から「歯ぎしりがうるさい」と言われ、困っている人は考えてもいいのではないでしょうか。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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