孝雄がなぜ春斗を受け入れたのか。明確な理由は明かされない。

「年齢を重ねることは出会いと別れを繰り返すことです。私は実母を闘病の末に亡くしているので、だんだん近づいてくる別れも、震災のように次の瞬間にはいなくなってしまう別れも経験した。そうした経験を積むと、命が生まれることは理由なく尊いものだとしみじみ感じるし、誰もが健やかに穏やかに時間を重ねてほしいと願いたくなる。孝雄も春斗にそんな気持ちを感じたのかもしれません」

 こんな時代だからこそ、人への想いが人を癒やす。本作は親子を見直す物語でもあり、若者への応援歌でもある。

「親子関係も若者の悩みもどんな問題も完全に解決することって難しい。おとぎ話のようにめでたしめでたしっていうことはない。でも人生ってそういうものなんですよね。これを読んだ方が『そういうものだよな』と安心して“不安になれる”作品になるといいなと思っています」

 その言葉が、処方箋のように心に沁みた。

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2024年2月12日号

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