準優勝の仙台育英の須江航監督

「私はたまたま、慶應の先輩ということで野球の指導をしているだけです。生徒たちも野球に一生懸命ですから、しっかり話を聞くことは大前提です。あそこで私が話を聞かなかったら、もう主将は提案してくることはないでしょうね」

 野球の技術向上のために話を聞く技術はあっても、叱るといいう行為の価値は限りなく低い。

雰囲気づくり心掛ける

 また、22年夏の甲子園の優勝インタビューで「青春って、すごく密なので」という名言を残した仙台育英の須江監督も叱らない指導者だ。指導の特徴は「目標値」の設定である。投手であれば球速、野手にはスイングスピードといった項目でベンチ入りの指標となる数値を示す。

 ただ、この指導法は選手たちの自主的な努力を促すものであり、目標値に到達しなかったからといって、叱るわけではない。

 選手からすれば、怠けていても叱られないが、なにもしなければ必要とされなくなる。ある意味、環境としては厳しい。

 ただし、厳しい競争環境の中で、前向きな力が生まれるように須江監督は雰囲気づくりを心掛けている。このあたり、私は青山学院大の原監督と須江監督のスタイルに共通項を感じる。叱ることで集団が後ろ向きになることを避け、前向きな力を生み出すことを意識している点で、ふたりの指導法は似ている。(スポーツジャーナリスト・生島淳)

AERA 2024年2月12日号より抜粋

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼