海外では、不適切な医療行為に対して、医師免許を剥奪(はくだつ)するケースがあります。例えば、米カリフォルニア州バークレーの医師、ケネス・マツムラ氏が提供したいわゆる「副作用のない化学療法」に関連して、医師免許が取り消されました。マツムラ氏は、2種類の薬剤を使用したこの治療法で、伝統的な化学療法の典型的な副作用(吐き気、脱毛、骨髄損傷など)なしに、広範囲に転移したがんの完全寛解を達成できると主張していました。しかし、この「副作用のない化学療法」に関する公式の臨床試験は実施されておらず、評価の高い査読付き医学雑誌にも記述が掲載されていないことが確認されました。

 このような治療法を提供することにより、マツムラ氏は患者とその家族を搾取し、無価値な治療に対して支払いを強いることで、彼らの恐怖や死を否認する感情を利用していたとの判断がなされました。結果として、彼の医療行為は「非難に値する」とされ、公共の安全を守るために医師免許の取り消しが必要とされました。

 日本では、医師が民間療法という名のもと、意図的に間違った治療を行ったとしても、刑事事件にならない限り医師免許が剥奪されることはありません。医師免許に安易に制限を加えることに賛成ではありませんが、野放しにし続けるのも問題だと思います。医師が意図的に医療に関する誤情報を流布した場合に、なんらかのペナルティーが抑止力になるかどうか、まずは検討するところからはじめる必要があるのではないでしょうか。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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