2018年から続いてきた近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師による「AERA dot.」連載もついに最終回。正しい医療情報をどう発信していくか、大塚医師が語ります。
【図解】ほくろと皮膚のがんの見分け方「A B C D ルール」を大塚篤司医師がわかりやすく解説
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私は2018年から「AERA dot.」で、医療情報の発信を続けてきました。私が専門とする皮膚科では、アトピー性皮膚炎に対する不適切な治療がマスコミで流れ、その後、アトピービジネスが拡大した苦い経験があります。間違った医療情報は、健康被害を引き起こし、ときに人の命を奪います。臨床の現場では、不適切な治療で苦しんできた患者さんを診ることもありました。そういったことから、根拠のある医療情報を発信してきたのですが、新型コロナが流行したことで大きな変化を迎えたと感じています。
かつて、間違った医療情報はマスコミを中心に広がっていました。テレビや新聞、週刊誌を通して、怪しい民間療法が広まり、本来であれば苦しむ必要がない人が健康被害にあうこともありました。ステロイドをめぐる誤情報は、1990年代、テレビ番組をきっかけに全国に広まり、その対応に皮膚科医は大きな労力と時間を割き対応に追われました。しかし、SNSが普及したことにより、医療に関する誤情報はすぐに打ち消すことも可能となりました。21年おきたステロイドに関する間違ったテレビの報道は、SNSを中心に皮膚科医が声をあげ、1週間後には訂正と謝罪が行われることになりました。
マスコミによる誤情報は、いまもしばしば起きます。しかし、これに対してはSNSが監視できる体制となってきています。そうなると、今度は別の問題が起きます。SNSで発信力を持つ医師が意図的に誤情報を拡散するケースです。多くの場合、発信者が開催するセミナーや民間療法、保険外の商品などを売るための宣伝なのですが、なかなか一般の人では見分けがつきません。ときには、間違ったそういう情報をうのみにして、正しい医療情報を発信する医師にまで攻撃的になる人も現れます。非常に残念なことです。