定食評論家として活動する、エッセイストの今柊二さん。庶民の味、市井の食文化に対する飽くなき探求心から全国各地をめぐり、安くておいしい定食をはじめとした料理とそれを提供するお店の調査・研究などを行っています。2005年以降は、定食に関する本を数多く出版。代表作に『定食と古本』(2012年)や『丼大好き』(2012年)などがあります。そんな定食評論家の今さんに日頃の読書の生活についてお話を伺いました。
------本はいつ頃から読むようになりましたか?
「きっかけは6歳の時。妹が産まれたタイミングで祖母が実家にやってきて、その時にいろいろと字を教えてくれたんです。字を読むのって楽しいなって思って、そこからいろいろと本を読み始めました。本を読むことが楽しいなってことがわかると、今度は市内の図書館とかいろんな児童会館とかの図書館を荒らして本を読みまくるっていうことをやっていましたね」
------学生時代はどんな本を読んでいましたか?
「そうですね、僕の世代はやはりSFが人気だったので、星新一さんの本とかですね。SF好きはみんな星新一から入るんですよ。星新一から入って小松左京、最終的には筒井康隆で熟成されるっていうような形態があって、そういう王道はやっぱり歩みましたね。筒井康隆の作品は、『農協月へ行く』とか『アルファルファ作戦』とかよく読みました」
------今さんは定食についての本をいくつか執筆されていますが。
「実は昔から食べ物にこだわりがあったわけではなくて......こだわりを持つようになったのは、特に定食に対してですが、大学に入学したときからなんです。そこから食べ物に関する本をいっぱい読むようになったのです。ただ、食べ物の本だけ読んでいるのはよくありません。ほかの本を読まないと、そこに食べ物が出てきたりすることがあるので、幅広く本を読まないとやっぱりわからないのです。そのようなわけでいろんな種類の本をたくさん読みますね」
------手当たり次第本を読む中で、何かインパクトの強い作品はありましたか?
「任文桓(イム・ムナン)さんの『日本帝国と大韓民国に仕えた官僚の回想』という本ですかね。先ほど話した通りいろんな本を僕は読むんですけど、最近はちょっとノンフィクションばっかりにこだわるような形になっちゃって。事実のおもしろさに、やっぱりフィクションが追いつかないかなって思うところがありまして。特にこの本は、タイトルにもあるように戦前から戦後にかけて激動の時代を生き抜いた、任さんのライフストーリーが描かれています。これがまた非常にいきいきと表現されているんです」
------具体的にどんなシーンが印象的でしたか?
「朝鮮半島と大日本帝国の激動の時代が描かれているんですが、朝鮮半島で産まれた著者が思いを新たにして日本にやってくるんですね。最初は牛乳配達をしたりとか、いろいろな仕事をしながら学問の道を志してなんとか同志社中学に入るんです。するとそこから彼を助けてくれる人がたくさん出てくるんですよ。その人たちの登場の仕方が非常におもしろくて。特に、東京帝国大学に入った時にアルバイトを紹介してくれるシーン。それが有名な書店である岩波書店なんですが、創立者の岩波茂雄のところに連れて行かれるんです。彼が二、三質問をしただけで『じゃあこれから君雇うから頑張って働いてくれ』っていう形で学費の面が免除されたり。こういうふうなエピソードが積み重なった一冊なんです」
------感動的なエピソードが多く書かれた本なんでしょうか。
「はい。日本には、何か学ぼうと思っている人を助けてくれるような人が昔からずっといたんだなってことが力強く読み手に伝わって、感動するような形で登場することがこの本の一番おもしろかったところかな。でもそれだけじゃなくて、ユーモアもたくさん詰まっています。人のことを考えて、人にとって良いことをしようとしている人が多く描かれているので、自分も人に良くしてあげたいっていう思いが強くなる、その意味で非常にあたたかい本。なおかつユーモア感覚がとてもあるので、どんどん読みすすめることができました」
後編では、今柊二さんが影響を受けた本について紹介します。お楽しみに。
<プロフィール>
今柊二 こんとうじ/1967年生まれ。エッセイスト。
横浜国立大学卒業後、定食評論家として活動し、2005年に『定食バンザイ!』を手掛けて以降、定食に関する本を続けて出版。2012年には、『定食と古本』、『丼大好き』の2冊を上梓。一方で、模型やガンダムのプラモデルに関する本も出版しており、『プラモデル進化論 ゼロ戦からPGガンダムまで』(2000年)や『ガンダム・モデル進化論』(2005年)を上梓している。