広大なアフリカ大陸のうち25カ国を訪ねてきた、フリーランスライターで武蔵大学非常勤講師の岩崎有一さんが、なかなか伝えられることのないアフリカ諸国のなにげない日常と、アフリカの人々の声を、写真とともに綴る。
料理をおいしくするものとは、素材? 下ごしらえ? 調理法? はたまた調味料なのか。これらももちろん必要な要素ですが、もっと大切なものがあるはず。その答えはアフリカでも日本でもそれほど変わらないのかもしれません。
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露店で食べる食事は、西アフリカの国々を訪ねた際の醍醐味の一つだ。夕暮れ時、裸電球やガソリンランタンの灯りに照らされるなか、大机に並べられた様々な料理を覗きこみながら、今晩はどの店で何を食べようかと街を巡るひとときは、ほんとうに楽しい。
西アフリカに位置する内陸国のマリ共和国。その中部の街モプチの旧市街に、地元民なら誰もが知る露店の食事処がある。一人暮らしの男性が客の多くを占めるが、家族で食べる夕飯のお惣菜としてテイクアウトするために、容器を持って買いに来る客も多い。この店の開店時刻は夜の8時だが、開店前から一人、また一人と人が集まり始め、営業を開始するころには、用意された長椅子は満席に。その周囲を、順番待ちの客と、容器を抱えた客が囲んでいる。
この店にはシェザミ(Chez Ami/フランス語で「アミの家」の意)という正式な店名があるが、この女性店主であるアミへの親しみを込めて、客はこの店を「アミ」と呼んでいた。2013年からモプチでの取材を続けている私も、彼女の味が気に入り、モプチ滞在中は毎晩、ここに足を運んでいる。
アミの大机に並べられる料理は決まっている。メインは大小様々な魚の素揚げと、鶏の煮込みだ。魚は、モプチをかすめて流れるニジェール川で捕れたばかりもの。塩を振って素揚げにしただけのシンプルな魚料理が、大皿につみあがっている。鶏は、ぶつ切りにして素揚げしてから、塩・胡椒、玉ねぎ、ニンニク、イタリアンパセリ、青唐辛子とともに煮込まれたものだ。魚と鶏のほかに、落花生油で揚げられたフライドポテトや、ソーと呼ばれる豆を茹でたもの、落花生とクスクス(この地域においては、小麦を荒く挽いた状態のもののこと)を蒸して混ぜ合わせたジュガ、塩とマギーブイヨンを絡めただけのスパゲティが用意されており、この中から好きなものを組み合わせてオーダーする。皿に盛られた料理の上には、鶏肉の煮込みの煮汁がソースとしてかけられ、そこにマヨネーズを添えてもらうこともできる。
夕飯のおかずに魚だけを買っていく客や、手持ちの金がないためにソーのみを大盛りで注文してほおばる客など、何をどれだけオーダーするかは全くの自由だ。私も、その日の気分に応じて、好き勝手な組み合わせと量を頼んで食べていた。
アミの料理はいずれも素朴なものだが、いずれも、味わい深い。厚くふっくらとした魚の身とパリッと揚がった皮のコンビネーションは、日本人、とりわけ魚好きの人も頷けるものだろう。一度揚げてから煮込まれた鶏は、香ばしく柔らかい。フライドポテトやソーは、揚げただけ、茹でただけにもかかわらず、他の露店で食べるものよりもずっと、素材の風味がしっかりと残ったものだ。そして、いずれの料理にも最後にかけられる、旨味が凝縮された鶏の煮込みのソースが、一皿一皿をご馳走に仕上げている。アミの料理の人気の所以は、外国人の私にも、確かに伝わってくる。