第3のタマは所得税の定額減税だ。昨年、岸田氏が「増税メガネ」と揶揄されたので、「何が何でも減税」とこだわって実現させたと言われた評判の悪い制度である。税金を払っていない世帯には給付金が配布されるが、そちらは、すでに手続きが始まっていて、早い自治体では2月末ごろから振り込みが始まる。一方、減税の方は、予算と税法の改正を待つので、実施は6月だ。6月に世帯人員1人当たり所得税3万円と住民税1万円を減税するのだが、実際には、1カ月でそれ以上税金を払っている人は意外と少ない。例えば、税金を毎月計1万円払っている単身者は、4カ月で計4万円減税されるという計算になる。実際には、7月はボーナスをもらってたくさん税金を払う人が多いので、7月での減税額はかなり多くなる。
ここから先が、給付金ではなく減税にした意味になるのだが、減税して給料の手取りが増えると、それは厚労省の給与の統計(毎月勤労統計)に反映される。給付金だと給料ではないので反映されない。そして、6月分の速報値については8月上旬に発表される。さらに給与が統計上大きく増える7月分の速報値は、9月上旬発表だ。実質賃金は今なお20カ月連続マイナスで、これをプラスにするのが岸田首相の大命題だが、所得減税の効果が表に出る8月から9月にはこれがついにプラスという可能性が非常に高くなる。今年は昨年以上の賃上げが見込まれると言うが、昨年も5%程度の賃上げを連合が要求し、3.58%という近年にない高い賃上げを実現したのに、それでも実質賃金はいまだにマイナス3.0%減だ。今年、仮に昨年より1%高い賃上げが実現しても実質賃金プラスは微妙だ。しかし、所得減税効果で、賃金は大幅にゲタを履かせられる。
さらにエネルギー価格が落ち着いていることもあって消費者物価上昇率は低下傾向が見えてきた。前述の電気・ガス料金補助金を延長すれば、物価を一段と抑制でき、実質賃金プラスはさらに確実になる。
「給付金ではダメ、所得減税だ!」とこだわった理由はここにあったのだ。大した策略ではないか。