党総裁として、カネを握り、公認権も握る最高権力者である岸田氏が有利である。もちろん、そのいずれについても、幹事長である茂木敏充氏の意向を完全に無視はできないが、これまでに比べれば、岸田氏の力がはるかに強大になったことは確かである。
さらに、あまり注目されていないが、官房長官だった安倍派の松野博一氏が裏金疑惑で事実上更迭され、後任に林芳正前外相が就いたことが大きい。安倍首相の時の官房長官は安倍派ではなく無派閥の菅氏、菅首相の時の官房長官は茂木派の加藤勝信前厚生労働相というように、最近は、首相の派閥と同じ派閥の議員が官房長官を務めることはなかった。しかし、現在は、岸田首相と同じ岸田派の林氏が官房長官だ。それが何を意味するかというと、年間10億円を超える官房機密費を他派閥に用途を知られることなく領収書なしで自由に使えるということだ。派閥のパーティー券収入は、多いところでも年間2億円強。官房機密費がいかに大きいかがわかる。このカネを自民党議員にばら撒けば多くの議員が岸田氏に靡く。カウンターパワーとなる派閥の力がほぼなくなり、岸田首相一強となったのだからそう簡単に岸田おろしになるとは言えないのだ。
ただし、岸田おろしを何とか封じてもそれでバラ色という展開にはならないのは岸田首相もよくわかっている。そこで、準備している4つのタマがある。
まず、4月に予定される国賓級待遇での米国訪問だ。「異例のおもてなし」の演出と連日流れる「ジョー」「フミオ」の蜜月映像。安倍氏ではないが、自撮りツーショットを岸田氏が自慢する姿が眼に浮かぶ。米国コンプレックスの強いバカな日本国民は嫌なことを忘れて「岸田さんてすごいんだね」と言ってくれるという岸田氏の思惑がミエミエだ。
第2のタマが電気・ガス価格激変緩和対策、すなわち電気・ガス料金を減額する補助金制度の延長だ。現在の措置は2024年4月使用分までとし、5月の使用分についてはそれを半分にして終わる予定だが、これを延長する可能性がある。これは単にバラマキで国民の歓心を買うというだけでなく、実は、第3のタマとセットで大きな効果を持つ可能性がある。