関口知宏さん(撮影/吉松伸太郎)
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 テレビ番組「列島縦断 鉄道12000㎞ 最長片道切符の旅」(NHK-BS・2004年)以来、鉄道の旅番組シリーズで日本全国や世界各地を巡ってきた関口知宏さん(51)。人々と自然に交流する姿や、旅中に手がける絵日記や書、音楽が印象的だった。コロナ禍もありテレビで見かけることが少なくなって久しいが、2年前から芸能活動とは別に、熱海を舞台に新たなプロジェクトに取り組んでいた。
(この記事は、関口知宏さんのプロジェクトを追っていく企画の第1回で、今後不定期に連載していきます)

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 2022年の夏のある日、関口さんは熱海市内の小高い丘の上にいた。明るい日差しが降り注ぎ、山と海が見渡せる立地。テニスコートだったという平らな土地が広がっている。

「この土地を買ったのは2009年です。1700坪あります。当時は中国の鉄道の旅から帰ってきて講演やイベントなど関連する仕事がたくさん入った頃で、たまたま土地が買えるだけの収入があったんです」

 静岡県伊東市に住む関口さんが知人に引っ越しの相談をしたところ、紹介された土地だった。即座に購入を決めたのにはある理由があった。

“家”が建つ場所は地球上にここしかない

 関口さんは幼少の頃に不思議な体験をしている。2歳のときまで毎日、繰り返し同じ夢を見たという。目を閉じるといつも同じ光景が表れた。真ん中に噴水が一つある中庭。周りをギリシャ神殿のような柱が囲う。ハーブのような香りが風に漂い、自分は中庭の廊下に立っている。

 心に焼き付いたこの情景は、成長してからも離れることがなかった。時々、この夢の続きを断片的に見た。神殿から続く坂道を親友と駆け下りたり、婚約者と思われる人が中庭を横切ったり。

「2歳の記憶なんてない人がほとんどだし、その頃はもちろん古代ギリシャの存在を知るはずもないから、普通にあり得ないですよね。でも、旅番組で世界各地に行ったでしょう? あちこちでこの夢を思い出すことがあったんです」

 実際、番組で2006年にギリシャのアテネを訪れたときに、パルテノン神殿が見える坂道で「この道、夢で見たんだよ。似ている」とつぶやいている。イタリアのポンペイでも夢の光景を思い出した。だが、この熱海の土地を見た瞬間の衝撃は別物だった。「あ、ここだ!」と感じたという。

「夢で見た中庭のある家はここに建つ。地球上にここしかない。買わなきゃいけないと思って即決したんです。3日間くらいは気持ちがぞわぞわしました」

 しかし、土地は購入後、そのまま放置された。イメージする家が壮大すぎて建てるのが非現実的だったからだ。

青い空と海が広がる見晴らしのいい立地(筆者撮影)
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設計図を書かずに模型をつくる