AERA 2024年1月29日号より

寄せ集め政党の側面も

 もっとも、民衆党を率いる柯文哲は批判も多い政治家だ。

 彼はもともと民進党の元総統・陳水扁や蔡英文の支援者で、同党の支援を受けた無所属候補として2014年に台北市長に当選。だが、やがてYouTubeなどで与党を辛辣に批判しはじめるようになった。

1月10日、台北市内で開かれた集会に登壇した柯文哲(写真:安田峰俊)

 舌禍も多く、2017年には自身が過去に医師として診察した陳水扁(総統退任後に汚職容疑で収監され、体調を崩していた)について「最初は詐病だったが、やがて本当になった」と発言、医師のコンプライアンス違反として罰金を科されている。

 2019年に彼が立ち上げた民衆党は、柯文哲の台北市長時代の業績を強調しつつ、出産手当・こども手当の拡大や、公共住宅の申請負担の軽減など若い世代向けの政策を打ち出して支持を伸ばした。だが、目先のバラマキを打ち出すポピュリズム政党だとする指摘も根強い。

 事実、党のスタンスの危うさは、民衆党の立法院選候補者の過去の経歴からも感じ取れる。

 すなわち、比例1位の黄珊珊と6位の林国成は親民党(国民党の分派)出身、比例2位の黄国昌は台湾独立派政党の時代力量の創始者、比例3位の陳昭姿は一辺一国行動党(民進党の分派)出身だ。

 さらに落選した候補者や党役員には、国民党の分派で中台統一派の新党や、逆に古い台独派の台湾団結連盟の出身者もいる。

 大同団結できるとは思えないほど、本来の政治的思想がかけ離れた人たちばかりである。

 これは、あらゆる支持者が自分が望む国家のイメージを投影しやすい半面、党としての軸が不透明なことを意味する。だが、既存政治に飽きた台湾の有権者の4人に1人は、そんな曖昧な「第三極」をあえて選んだ。

 今後4年間、台湾の既存の二大政党は、キャスティングボートを握る民衆党の機嫌を取りながら議会戦略を組み立てることを余儀なくされる。

 今回の選挙は、民主化から約30年を経た台湾が、民主主義がもたらす試練に直面した出来事として後世に記憶されるのではないか。(ルポライター・安田峰俊)

AERA 2024年1月29日号より抜粋

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