台湾総統選は与党・民進党が勝利したが、注目すべきは第三勢力である柯文哲率いる民衆党の躍進だ。台湾の政治体制は、中国と距離を置く民進党(緑色陣営)と、中国大陸との融和姿勢を重視する国民党(藍色陣営)の二大政党制として語られてきたが、いま何が起きているのか。AERA 2024年1月29日号より。
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「過去8年間の民進党政権はムダ遣いが多かった。柯文哲は台北市長時代にしっかり仕事をしていて、信頼できると思う」
地方都市の新竹市から家族4人で応援にやってきたという、ハイテク企業に勤務する40歳の王氏(仮名)はそう話した。今回の民進党の伸び悩みは、蔡英文政権下で経済停滞や住宅難・労働問題といった社会問題の解決が不十分だったとみなされたことも大きいのだ。
二大政党の対立に食傷
王氏と妻は前回の選挙では“緑色”(民進党)に投票したが、今回は柯文哲の民衆党を熱心に支持している。王氏は言う。
「両岸関係(中国との関係)は、個人的には重要度が低い。ただ、柯文哲はアメリカにも中国にも寄り過ぎないからいい」
いっぽう、“藍色”(国民党)支持者の外省人(戦後に中国大陸から渡ってきた中国人)家庭出身の23歳の男性はこう言う。
「古い政党である国民党は、若者のことを考えてくれない。でも、民進党の頼清徳は中国を挑発しすぎて危険だから支持できない。周囲の友達も、みんな柯文哲と民衆党支持だ」
各種世論調査では、20~39歳の台湾人の間で民衆党の支持率は5割を超えている。
その一因は、中台関係ばかりを争点とする二大政党の対立にうんざりする感覚が、世代が下がるほど広がっていることにある。
民衆党は国家観や対中政策については、台湾アイデンティティーをほどほどに主張しつつも、経済発展につながる中国との交流拡大にも積極的という玉虫色の立場だ。このことがかえって、若い世代の支持を得た。