難聴はある意味で社会的なことからの逸脱のきっかけであったのか? 社会に組み込まれることで人生を全うしてきたが、それが老齢の様々なハンディキャップに出合うことで次第に人生から逃れたくなってくるのです。生きるために、生きようとしたことから、人生の最後には、生きることから、死を生きることに生き方を変える生き方に変わってくるのかも知れません。そのために神が五感のひとつを取り上げて、あとの四感も捨てながら次第に第六感という世界へ向かわせようとする神の計画だと、都合のいい風に思わせて、人間から知を奪い、そして痴を与えるような生き方へと導こうとするのかも知れません。
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰
※週刊朝日 2023年4月7日号