山折哲雄『ブッダに学ぶ 老いと死』(朝日新書)
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 先ほど述べたように、林住期という人生観の特徴は、世俗的な生き方と聖的な生き方が入り混じっているところがあることです。欲望の世俗的世界に徹底するわけでもなく、禁欲の聖的世界に徹底するわけでもない。中途半端に俗と聖を出たり入ったり行ったり、来たりする。その意味では、自由気ままで遊戯的な生き方です。

 この点、日本には古来、「半僧半俗」「非僧非俗」という仏教者たちの生き方があります。それは平安時代末期の歌謡集『梁塵秘抄』に「遊びをせんとや生まれけむ」とあるような人生観です。

 これが日本に継承されている林住期的生き方です。

 林住期的生き方を代表する日本人を1人挙げておきましょう。西行(1118~1190年)です。『新古今和歌集』の第一等の歌人としてよく知られる僧侶です。武士を辞め、妻子と別れて出家生活を送ったと言われていますが、単なる「家出」であるというのが私の認識です。

 西行の人生の中心は旅でした。つまり一所不住、あるいは遍歴、まさに林住期的生き方をした人間です。

 ただ西行は旅暮らしの中で、家族のところにしばしば帰っています。また旅の目的も東大寺の勧進、寄付金募集のために奥州まで行ったり源頼朝に会って兵法を教えてみたりと、世俗的な仕事、つき合いが少なくない。武士時代につき合った貴族たちと一緒の旅というのもあります。

 しかし、一度も歌を捨てたことはありません。歌人の仕事は世間とのつながりがなければ続けられない。だから積極的に世俗的世界とかかわったんですね。

 僧侶としての修行は主に高野山で重ねましたが、比叡山に登ったり伊勢神宮に行ってお社の前で拝んだりもしています。

 つまり西行は、単に一流の歌人で収まるような生き方をした人間ではないわけです。

 西行はいったい何を求めてそういう生き方をしたのか。それは「自由の境涯」だったと思います。西行が日本的自由、フリーダムを生きた人間だからこそ、西行的生き方は後世の多くの人々に恋い慕われるようになったのでしょう。もちろん、私も西行の生き方に憧れを持つ一人です。

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西行法師の理想的な人生