歌手八代亜紀やしろ・あき/1950年、熊本県生まれ。71年デビュー。73年に出世作「なみだ恋」を発売。「愛の終着駅」「もう一度逢いたい」「舟唄」など数々のヒット曲を出し、80年には「雨の慕情」で第22回日本レコード大賞を受賞する。2010年、文化庁長官表彰。12年、ジャズアルバム「夜のアルバム」を発売。世界75カ国で配信される。アルバム「哀歌─aiuta─」は日本コロムビアから発売中(撮影/写真部・東川哲也)
歌手
八代亜紀

やしろ・あき/1950年、熊本県生まれ。71年デビュー。73年に出世作「なみだ恋」を発売。「愛の終着駅」「もう一度逢いたい」「舟唄」など数々のヒット曲を出し、80年には「雨の慕情」で第22回日本レコード大賞を受賞する。2010年、文化庁長官表彰。12年、ジャズアルバム「夜のアルバム」を発売。世界75カ国で配信される。アルバム「哀歌─aiuta─」は日本コロムビアから発売中(撮影/写真部・東川哲也)
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 演歌歌手の八代亜紀さんが昨年12月30日に亡くなっていたことが9日、公式サイトで発表された。73歳だった。所属事務所によると、八代さんは、同年9月に膠原病の一種で指定難病である抗 MDA5 抗体陽性皮膚筋炎と急速進行性間質性肺炎を発症し、療養を続けていたという。八代さんを偲び、週刊朝日2015年11月27日号に掲載された、作家の林真理子さんとの対談を抜粋して再配信する(年齢、肩書等は当時)。

*  *  *

 今年デビュー45年目を迎えた、言わずと知れた“演歌の女王”八代亜紀さん。作家・林真理子さんとの対談で、デビュー前後について語った。
 
林:昔、銀座のクラブで歌ってらしたころ、クラブのお姉さんが八代さんの歌を聴いて泣いたそうですね。

八代:泣いてましたね、みんな。私はそれで「そうか、これが心が伝わる歌い方だ」と知ったんです。

林:悲しいお姉さんたちを、いっぱい見てきたんですね。

八代:給料日になると、お店の裏口にお姉さんの彼氏やお父さんが立っていて、お姉さんたちが給料袋を渡してるんです。あれが女心なんだと思いましたね。

林:切ないですね。でも八代さんご自身は、「悲しい恋なんか一度もしたことがない」とおっしゃってますね。

八代:楽しい恋しかないです。

林:フラれたこともない?

八代:ないの。でもそれを言うと、みんな「気づいてないだけかもしれない」って言うんです。ひどいでしょ(笑)。

林:うらやましい。なのにどうして、あんなに悲しい歌が歌えるんですか。

八代:あれは私自身じゃないの。どの歌も私の体験じゃなくて、代弁してるんです。それは銀座で会得しました。

林:そのころ、まだ10代ですか。

八代:18歳とか19歳とかですね。15歳で親の反対を押し切って上京して、最初は新宿の美人喫茶で歌って。それから2年くらいして銀座の高級クラブの専属シンガーになったんです。

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