大串敦(おおぐし・あつし)/1973年生まれ。専門はロシア政治、旧ソ連諸国の政治学、比較政治学。共著に『ロシア・ウクライナ戦争』(写真:本人提供)

 ロシアは開戦当初、「譲れないライン」として「ウクライナをNATOに入れない」「東部のドンバス(ドネツク、ルハンスクの2州)の保護」の二つを目標にしていたように見えました。いまはロシア的にはザポリージャ州とヘルソン州も併合したことになっているので、この2州も含めての要求をウクライナにのませることが目標になっているのかもしれません。

 一方でゼレンスキー大統領はあくまでも「すべて奪い返す」──つまりドンバスとクリミア半島も含めたすべてを、ということをいまは一貫して譲っていません。

 しかし、戦況や支援の先細りを前提にすれば、「ウクライナがすべてを取り返す」ことに関しては、かなり悲観的にならざるを得ないと思います。

 開戦当初によく言われた「(開戦日の)2月24日のラインに戻す」で、譲歩をするか。でもこれにさえ、今やロシアは納得しないでしょう。あるいは、ドンバス2州とザポリージャ、ヘルソンの2州は断念した上で、何らかのウクライナの安全保障の仕組みを作り、停戦するか。

 ただ、これは戦争がいったん終わり、死ぬ人が少なくなるという点で意義はあるものの、ウクライナ側に大きな禍根を残すので、良いシナリオと言えるかどうかはわかりません。ウクライナ戦争は、「停戦に向けた、よりベターなシナリオ」を思い描くことさえ、きわめて難しい。そんな状況です。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年1月1-8日合併号

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