ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、破壊工作防止訓練に参加するウクライナ軍人=2023年12月5日、ウクライナのチェルニヒウ州(ロイター/アフロ)

 終わりが見えないウクライナ戦争。いまどんな状況なのか、今後の展開はどうなるのか。慶応義塾大学法学部教授・大串敦さんに聞いた。AERA 2024年1月1-8日合併号より。

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 ウクライナ戦争は、いまどんな段階にあるのか。2023年6月頃からのウクライナによる「大規模な反転攻勢」は、じゅうぶんな成果は得られず失敗に終わったと見ていいと思います。逆にここで持ちこたえたロシア軍が、最近は攻勢に転じているとの情報が多いようです。

 私見ですが、ウクライナ軍は軍隊として分権化されている傾向があり、守りではなく攻勢に出るにあたっては全体としてバランスの取れた作戦がとれなかった。組織作りの弱い部分が、反転攻勢では出てしまったように思います。

 逆にロシアは、兵器の生産能力にしてもまだかなり余裕がありそうです。開戦当初から「すぐに枯渇する」と指摘されてきましたが、その気配はない。私が調査する範囲では、大都市部での市民の生活ぶりも変わりない。ロシアという国の「基礎体力」の高さは、多くの人が見込み違いをしていたと言えます。

 ロシアの世論も、動員兵の妻や母親らが早期の帰還を求めて署名活動を始めるなどの動きはあったものの、プーチンへの支持は比較的高い水準を維持しています。直接戦争の被害を被っている層以外の部分で反戦運動が高まり、反プーチン的な動きに大きくつながっていくかと言われると、私は悲観的です。

「和平」望む声も

 一方のウクライナでは、「徹底抗戦だ」という世論が圧倒的に多いものの、「領土を少し諦めてでも、和平を結んだらどうか」という声がこの2カ月ほどで増えてきているのは事実です。

 さらに戦況が悪くなったとき、少数派の声が増えていく可能性もありうるでしょう。そのときに「意外と世論を見ながら動く人」でもあるゼレンスキー大統領が、どう動くのか。そこは気になるところです。

 ウクライナがさらに頭が痛いのは、アメリカやEUからの支援が細っていく可能性です。アメリカでは共和党の反対で、追加支援の先行きが不透明な状態。EUでもスロバキアでは9月末の選挙でウクライナ支援継続反対の政党が政権をとるなど、とくにウクライナに隣接している国々で「支援疲れ」が見られるのは確かでしょう。EUによる資金援助にハンガリーが拒否権を行使していますが、これにスロバキアなどが同調しないとも限らない。ロシアがいまだ兵器の生産能力が高いのに対し、ウクライナは西側からの支援がないと、その意思はあっても現実問題として戦い続けることはできないでしょう。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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