三上博史さん。撮影/大野洋介 hair & make up 赤間 賢次郎 styling 勝⾒宜⼈(Koa Hole inc.) costume Suzuki takayuki

「あなただけ見えない」の多重人格者も、スタッフの方が「二重人格の役をやらない? 好きそうじゃん」と言ってくれたことがきっかけ。二重人格だと11話分は持たないから、第三の人格として明美が第7話から登場した。僕も自発的に、「トラック29」(1989年のイギリス映画)でのゲイリー・オールドマンの振り切った芝居を「あなただけ見えない」で使ったり、いろいろ実験しましたね。芝居の引き出しが増えたのは、あの頃の経験も大きいと思っています。

遺言は「性格俳優にならないで」

――実験の場としながらも、大人数の目に触れる「ドラマ」に出続けていたのは、母親の影響だという。母親は俳優で、三上が20歳ときに亡くなった。

三上 母の最期の言葉が、「性格俳優にはならないで」だったんです。それがどういうことか、正確にはわからなかったんですが、僕は「ツウな役者も悪くはないけれど、みんなが知っているような役者になりなさい」というふうに解釈した。それで、「30歳までにみんなに知ってもらえる俳優になる」という計画を立て、作品に出まくったんです。

――その狙い通り、日本中が俳優・三上博史を知ることになった。一方で、プライベートの情報をほぼ出さなかったから、人となりはミステリアス。サイコパスや多重人格者など、役そのままのイメージを持たれることも多かった。

三上 プライベートの情報を出すことで失うものは大きいですよ。「著名人のプライベートを知りたい」という欲求は理解できますし、今でいうとインスタグラマーとか、プライベートを売りにする仕事もあって、それはそれで自尊心も満たされるわけですから、需要と供給のバランスも取れるのかもしれない。でも僕は、自分の表現としてはよろしくないと思っています。

 僕個人が情報を閉ざしていたから、(一般の人は)余計に興味を搔き立てられたところはあったと思います。役のイメージのまま、「来週、三上の家が麻薬捜査に踏み込まれるらしいから、片づけておけば?」と言われたこともあります(笑)。でも、僕は特に悪いことはしてないので、そういうイメージを面白がっていたところもありました。

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心の中までは誰も覗けない