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 ヘルシンキのスーパーで働くアンサ(アルマ・ポウスティ)は理不尽な理由で仕事を失う。工事現場で働くホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)は気が滅入る日々を酒でやり過ごしている。二人はバーで出会い惹かれ合うが、不運な偶然からすれ違ってしまい──。アキ・カウリスマキ監督待望の新作となる「枯れ葉」。主演のアルマ・ポウスティさんに本作の見どころを聞いた。

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 アキ・カウリスマキ監督の作品はもちろんずっと観てきました。監督はヘルシンキでバーや映画館を経営していて、私はその映画館に入り浸っていたんです。ですから今回のオファーは大きな驚きでした。監督は35ミリのフィルムカメラを使い、常に現場にいて小道具の位置を動かしたり、とても細かく調整をします。おもしろかったのは「セリフは覚えてきてほしいけど練習はするな」と言われたことです。そして実際、ほぼワンテイクで全部撮ってしまいました。彼はモニターも見ないのです。何ができあがるか、頭のなかで全てチェック済みなのだと思います。

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 最初は正直「大丈夫かな」と思いました。でもたしかに何度も繰り返すことで演じていることがだんだんフェイクになってしまうんですよね。人物に関しての話し合いもしませんでした。監督は俳優それぞれが自分の人生や経験の痕跡をどういう形で映画に残してくれるかを期待し、俳優を信頼してくれているのです。現場は正直でまっすぐであたたかいものでした。

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 アキ監督は小さき人々、弱い立場にある人々の物語の素晴らしい語り手です。そこには厳しい現実も映ります。劇中で、ラジオからは常にウクライナのニュースが流れています。監督は「映画とはその時代の証拠をタイムカプセルのように残すもの。それが芸術家としての責任だ」と言っていました。

アルマ・ポウスティ(俳優) Alma Poysti/1981年生まれ。ヘルシンキ大学シアター・アカデミー卒業後、舞台や映画、ドラマで活躍し、主演作「TOVE/トーべ」(20年)でブレーク。全国順次公開中(撮影/写真映像部・上田泰世)

 私が演じたアンサも厳しい人生を送ってきた人です。孤独で仕事も不安定。でも男性にも社会にも頼らない誇りを持つ一本筋の通った人です。そんな彼女が「人を愛する」という勇気を持って一歩を踏み出します。他者を気にかけケアすることの大切さが本作の大きなテーマだと思います。それはこのシニカルで冷淡で、怒りに満ちた世の中に希望をくれるのです。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年1月1-8日合併号