自民党の派閥抗争は、権力過程における党内闘争にとどまらず、国の方針、その進むべき路線をめぐる闘争だったはずです。よく「ダーティーなハト」か「クリーンなタカ」かということが話題になりました。つまり、一方では権力過程ではカネの力にあかせて国会議員の頭カズを増やし、政策過程では比較的、戦後の専守防衛や防衛費のGDP比1%枠、全方位的な平和外交を進めようとする旧田中派や旧経世会のような派閥があります。他方では、利権やカネには相対的に距離を置きつつ、政策過程では「戦後レジーム」に挑戦するようなスタンスのタカ派の派閥があります。安倍派がその代表のように見られてきましたが、長年にわたる裏金疑惑で安倍派は「ダーティーなタカ」であることが明らかになりました。

 岸田政権は、一体、タカなのか、ハトなのか。あるいは「ヌエ(鵺)」なのか。権力過程と政策過程の両面から今回の疑惑の帰趨を見定めていく必要がありそうです。自民党内に権力闘争だけでなく、それをキッカケに路線闘争が起きることになるのか、その点を見失わないようにすべきです。

AERA 2024年1月1-8日合併号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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