姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 日銀の植田和男総裁の「チャレンジング」という発言があったように経済面では、異次元緩和からの脱却、つまりアベノミクスからの脱却が始まりつつあるようです。一方で政治の面でも、安倍派(清和政策研究会)が事実上解体しかねない局面を迎えています。安倍なき安倍政治を引き継いだ岸田文雄首相が、その権力基盤の柱の一つである安倍派の排除に動こうとしていますが、それはブーメランとなって岸田政権を直撃しかねません。

 ここで注目したいのは、権力過程の変化が、政策過程の変化へと繋がるのかどうかです。つまり、基本的政策や国の進むべき路線という点で安倍政治のレガシーに変化が訪れるのか。具体的に言えば、防衛費の大幅な増強による軍事大国化や専守防衛の放棄といった、戦後日本の安保政策や平和外交の基本原則を否定するような安倍政治のレガシーは変わるのか。派閥抗争を劇場型政治ドラマとして観るだけでなく、政策過程の変化が起きるのかどうか、その点に目を凝らすべきです。

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