12月15日から、スタジオポノックの長編アニメーション映画「屋根裏のラジャー」が全国劇場で公開中だ。「メアリと魔女の花」以来、約6年ぶりとなる本作は、当初2022年夏の公開予定だった。しかし、コロナ禍の影響と映像表現のクオリティ向上のために約1年半の延期を決断。経営的な負担をおしてまで、ポノックが挑戦したこととは何か。制作の舞台裏を、監督の百瀬義行氏とプロデューサーの西村義明氏が明かした。
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映画「屋根裏のラジャー」の主人公は、ラジャーという名の少年だ。
ラジャーは実在する人間ではない。アマンダという少女が生み出した「イマジナリ」(空想上の友達)だ。本作では、イマジナリと人間が、空想と現実の世界をシームレスに行き来しながら冒険し成長する様子を、過去に類を見ない映像表現と躍動的な動きで描き切っている。
企画の出発点は「透明人間」
原作は、イギリスの詩人で作家のA.F.ハロルドが書いた『The Imaginary』。スタジオポノック代表取締役プロデューサーの西村氏から、「これを映画にしないか」と持ち掛けられた監督の百瀬氏は、「面白いと思う反面、難しいなとも思った」と話す。
「イマジナリーフレンドを扱った作品は、通常、創造主である子どもを主人公に置きますが、この作品は逆でイマジナリが主人公。そこが面白いわけですが、イマジナリは創造主である子ども以外には見えないという制約がある」
さらに、子どもが成長するにつれてイマジナリは忘れ去られ、存在自体が消えてしまう運命にある。
「そんなイマジナリを、どのように独立した存在として実在感を持たせて描けるかという点が、まず大きな課題でした」
実は、本作を映画化する遠因となった作品がある。スタジオポノックが2018年に公開した短編アンソロジー「ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-」のうちの一つ「透明人間」だ。
「透明人間」の監督を務めた山下明彦氏は、ジブリの宮崎駿氏が舌を巻くほど力量のあるアニメーターだ。西村氏は、「そんなアニメーターの得意技を封じたらどんな表現が生まれるのか見てみたい、という気持ちから企画した」と語る。
「透明人間は、透明だから描けない。それをどう表現するのか見てみたかった。これ、当初は“反作用”でやりたかったんですよ。つまり雨粒を弾いたり、足跡だけを地面に残したりすることで、『見えないけれど、そこに何かがいる』ことを暗示させるような表現ができないかと思ったんです」(西村氏)
結局「透明人間」ではそのような表現は避けたが、「見えない存在を描く」というアイデアは西村氏の中に残り続けた。その折、「The Imaginary」と出会い、「これだ」と直感する。
「イマジナリは、子どもには見えるけれど、大人には見えない存在。百瀬さんは子ども時代の記憶をすごく持っている方だし、両方の視点に立って破綻なく描くことができるんじゃないか。そう思って、映画化を企画しました」