――一人のアーティストのなかにもグラデーションがありますからね。後藤さんも「楽しくパワーポップをやりたい」と思うこともあるだろうし。
そのなかでもいろんなことを考えちゃいますけどね。今年のツアー(ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2023「サーフ ブンガク カマクラ」)は、それこそ楽しくパワーポップを演奏してましたけど、どうしても社会のことが衝突してくるというか。“俺らが楽しくライブをやってるときに、パレスチナのガザ地区には爆弾が降り注いでいる”。そういうモヤモヤはずっとあったし、「でも、何ができんの?」「どうやるの?」という気持ちもありました。
いろいろ考えたんだけど、何も音楽で伝えなくちゃいけないってこともないなと思ったんですよね。ライブの2時間はただ楽しく演奏して、終わったら別のやり方で発信してもいいわけで。今回僕らは「大量虐殺をやめろ」というプラカードをステージセットのなかに立てたんですよ。自分で手作りしたプラカードなんだけど、ライブに来てくれた人が気づいたり、配信したときに映ることもあるだろうし。もちろん「私はなにもやらない」という人もいていいし、それぞれが選択すればいいことだと思います。
――この本には収録されていませんが、11月29日の朝日新聞に掲載された「朝からロック」(「市民の傍らに立ち 叫ぶ」)では、「紛争の歴史については、注意深く学びたい。そのうえで常に市民の傍らに立ち、戦争反対と叫びたい。」と書かれていました。また、YouTubeの生配信番組(D2021×Choose Life Project「ガザで一体何が起きているか -民族浄化とは何か-」)に参加するなど、積極的な発信を続けていますね。
「D2021×Choose Life Project」に関しては僕が話すというより、学び手、聞き手の一人として参加させてもらいました。パレスチナにルーツがある方、この問題にもっと深くコミットされている方が出演されるので、僕は勉強する立場というか。僕としては「子どもたちが殺されるなんて、絶対によくない」というところから始めればいいと思っていて。「どんな理由があれば病院に爆弾を落としていいということになるのか?」と問いたいじゃないですか。もちろん「そんなことがあっていいはずない」という憤りもあります。普段は女性の人権やLGBTパレードなどでメッセージを発している海外の友達のミュージシャンも、ガザに関しては何も言ってないんですよ。それはすごく不思議だし、「なぜなんだ?」という疑問もありますね。