『Vocalese Live』The Manhattan Transfer
『Vocalese Live』The Manhattan Transfer
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 1986年は前年から32組、実に35%増しの延べ103組が来日した。ハービー、チック、キースなど8組は2度は訪れている。バブル期の開始は同年12月とされるが、来日ラッシュからは既に始まっていたと言えそうだ。主流派が33組と大躍進、19組のフュージョン/ニュー・エイジ系、16組の新主流派/新伝承派、各13組のフリー系とヴォーカル、4組のディキシー/スイング系、3組のクラブ/ファンク系、2組のビッグバンド(スイング、モダン)が続く。野外フェスでは「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」「ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル・イン・斑尾」「マウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァル」などが開催され延べ30万人もの観客を動員、「富士通コンコード・ジャズ・フェスティヴァル・イン・ジャパン」もこの年に始まっている。空前のジャズ・ブームだったが、転勤~引っ越し、長男誕生、倒産~就活と、それどころではなかった。

 作品数は前年から3作増しの32作にとどまる。スタジオ録音とライヴ録音は半々で、日本人との共演は前者が13作(6作は和ジャズ)で後者は5作(4作は和ジャズ)だ。和ジャズ、カーメン・マクレエ『ライヴ・イン・トーキョー』、マンハッタン・ジャズ・クインテット『ライヴ・アット・ピット・イン』、ロン・カーター『ザ・パズル』、ステップス・アヘッド『ライヴ・イン・トーキョー1986』、アウト・オブ・ザ・ブルー『ライヴ・アット・マウント・フジ』は躊躇わず、ラウンジ・リザーズ『ビッグ・ハート』、ラスト・イグジット『ザ・ノイズ・オブ・トラブル』、ミルチョ・レヴィエフ『ジ・オラクル』は粒揃いではなく選外とした。スティーヴ・レイシーの『ザ・キッス』は未聴だ。というわけで1986年はマンハッタン・トランスファー『ヴォーカリーズ・ライヴ』、マキシン・サリヴァン『スインギン・スウィート』を取り上げる。今回はマントラ盤だ。

 結成は1969年だが、多くが知るのは再編された73年の二代目からか、シェリル・ベンティーンが加わる79年の三代目からだろう。昨年、リーダーのティム・ハウザーは他界したが、三代目だけで35年も続いた。離合集散の激しい音楽界では稀有なことだ。技巧を超える魅力に乏しいそれぞれにとって最適の居場所だったということではないか。二代目は低空飛行だった。演目がジャズ、ドゥー・ワップ、ポップス、シャンソンほかに及ぶとくれば、大方の印象は「おシャレなグループ」を超えるものではなかったと思う。大ブレイクしたのは1979年の『エクステンションズ』だ。ディスコ・ブームに乗った《トワイライト・ゾーン》とウェザー・リポート《バードランド》のカバーが大ヒット、人気グループに躍り出る。1985年にはヴォーカリーズに挑んだ『ヴォーカリーズ』を発表、最高度の評価を受けて当代ジャズ・コーラス・グループの頂点に立ったのだった。

 初来日は人気上昇中の1980年6月で、82年2月、83年10月と来日を重ねる。推薦盤は4度目の来日時、1986年2月の「ヴォーカリーズ・ツアー」中に録られた。レーザーディスクとビデオカセットが同年に、CDとLPは翌年にリリースされている。コンサートをフルに収録した映像版のほうが6曲多い。とはいえ、音声版もコンサートで取り上げた『ヴォーカリーズ』からの曲は余さず収録している。タイトルに偽りなしだ。コンサートは、ほぼ『ヴォーカリーズ』収録曲で通した第1部(CDでは1~7曲目)、ドゥー・ワップが中心の第2部(8~10曲目)、フュージョン系と懐メロ・ポップスを取り上げた第3部(11~13曲目)で構成される。第2部からはヒットパレードだが、『ヴォーカリーズ』収録曲で異質の《ザッツ・キラー・ジョー》を第2部に、《レイズ・ロックハウス》を第3部に持ってきたのは正解だ。なんと言っても第1部がすばらしい。

 ジミー・ジュフリー作《フォー・ブラザーズ》で幕開け。アンサンブル・パートといいアドリブ・パートといい、ウディ・ハーマン楽団の古典に則ったスリリングな畳みかけに端からゾクゾクしっぱなしだ。ここから6曲、目玉の『ヴォーカリーズ』収録曲が続く。J.J.ジョンソン&ベイシー作《ランボー》ではベイシー楽団流に軽快にバウンスし、クインシー・ジョーンズ作《ミート・ベニー・ベイリー》では日本人好みのマイナー調をファンキーにグルーヴさせ、ロリンズ作《エアジン》では高速連射の超舌技?で圧倒し、サド・ジョーンズ作《トゥ・ユー》では美しいハーモニーでコーラスの醍醐味に浸らせ、クリフォード・ブラウン作《シング・ジョイ・スプリング》では高難度の歌唱で唸らせ、デンジル・ベスト作《ムーヴ》ではマシンガン・スキャットものかはマシンガン・ヴォーカリーズで攻め立てるといった案配で、一気呵成、息をも付かせぬステージ運びなのだ。

 全員一丸で突き進んだ活気と緊張感の漲る第1部を聴いたあとでは、第2部と第3部は聴き劣りする。ヒットパレードとあって寛いだ好演とも言えるが、手慣れた感は否めず、ポップ・フュージョン系の《オン・ザ・ブールヴァード》などはむしろ古びて聴こえる。そんななかでは、アカペラで多彩な表現を見せるバーバーショップ系《デューク・オブ・ダビューク》、腰も揺れだすラテン・フュージョン系《シェイカー・ソング》が快唱だ。

 3度目の来日時の録音も『バップ・ドゥー・ワップ』『マン-トラ! マンハッタン・トランスファー・ライヴ・イン・トーキョー』で聴けるが平均点、推薦盤には及ばない。

 音声版は27年前に発売されたきりだが入手難ではなさそうだ。もちろん、再発が続いた映像版のほうが入手は容易だろう。ただ、一般に映像版では聴覚より視覚が働きがちで、一度観ると手が伸びにくい嫌いもある。YouTubeでチェックしてから決められるといい。[次回8/17(月)更新予定]

【収録曲】
『Vocalese Live』The Manhattan Transfer

1. Four Brothers 2. Rambo 3. Meet Benny Bailey 4. Airegin 5. To You 6. Sing Joy Spring 7. Move 8. That's Killer Joe 9. The Duke of Dubuque 10. Gloria 11. On the Boulevard 12. Shaker Song 13. Ray's Rockhouse

Recorded at Nakano Sun Plaza Hall, Tokyo, on February 20 & 21, 1986.

The Manhattan Transfer: Tim Hauser, Alan Paul, Janis Siegel, Cheryl Bentyne (vo).
The Manhattan Transfer Band: Yaron Gershovsky (key, dir), Wayne Johnson (g, el-g), Alex Blake (b, el-b), Buddy Williams (ds), Don Roberts (ts).

【リリース情報】
1986 LD/VC Vocalese Live 1986 / The Manhattan Transfer (Jp-Columbia/Jp-Videoarts)
1987 CD  Vocalese Live / The Manhattan Transfer (US-Atlantic)
   CD/LP Vocalese Live / The Manhattan Transfer (Jp-Atlantic)
   LD  Vocalese Live 1986 / The Manhattan Transfer (US-Pioneer)
2000 DVD  Vocalese Live 1986 / The Manhattan Transfer (US-Image Entertainment)
2004 DVD  Vocalese Live 1986 / The Manhattan Transfer (Jp-Columbia)
2004 DVD  Live In Tokyo / Carmen McRae + Vocalese Live / The Manhattan Transfer
      (It-Eagle Rock)
2008 DVD  Vocalese Live 1986 / The Manhattan Transfer (Jp-Columbia)
2010 DVD  Vocalese Live 1986 / The Manhattan Transfer (Jp-Columbia)

 映像版では、音声版の10曲目と11曲目の間に《Heart's Desire》《Birdland》が、12曲目と13曲目の間に《Java Jive》《Blue Champagne》《How High the Moon》《Boy from New York City》が収録されている。

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。

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