国際婦人科癌学会での基調講演。前年度の講演者はモデルナのCEO。NPOの代表が講演するのは異例中の異例だった。講演終了後、出席していた医師たちから、質問攻めにあった(撮影/伊ケ崎忍)

一枚の名刺を見た瞬間「deleteC」を思いつく

 小国はこの国際会議をこう振り返る。

「医療者は、市民を巻き込んで、自分たちのやっていることを伝え、理解をしてもらい、広げたいと思っているけれど、なかなかそれができないという悩みを抱えている。そんなときに日本でCを消して子どもからお年寄りまで参加しているアクションがある。しかも、がんと関係ない人、企業が巻き込まれてやっているということで僕は呼ばれたんだと思う。Cを消すというシンプルなアクションだったから人々が動きだしてくれた、軽やかな一歩が大切だと伝えました」

 きっかけは2018年、がんを患う友人の中島ナオからこう相談されたことだった。

「小国さん、私はがんを治せる病気にしたい。何かアイディアを考えてほしい」──。

 しかし、医療の素人である小国に簡単にはアイディアは降ってこない。

 そんなある日、中島が昨日こんな先生と会ってきたと一枚の名刺を小国に差し出した。

「MD Anderson Cancer Center」に勤務する日本人医師の名刺だった。

 その名刺を見た瞬間、小国は「ナオちゃん、これだよ!」と叫んでいた。

 名刺の「Cancer」の部分だけが赤い線で消されデザインされていたのだ。

 小国は、ああ、Cという文字を消せばいいんだ、と思うと同時に、商品名や企業名が次々と浮かんできていた。「deleteC」誕生の瞬間だった。

 テレビディレクターからキャリアをスタートさせた小国だが、実は大学3年のとき、知人とインターネットテレビの会社を立ち上げる準備をしていた。現在のユーチューブのようなメディアで、仙台のストリートミュージシャンたちのプラットフォームをつくろうとしたのだ。

「その頃、僕は引きこもりに近く、日がな一日部屋でゲームをやっているような感じで、親指には、コントローラーのくぼみ痕ができるほどだった。生きてはいるけど、社会的には死んでいる状態。このまま無表情にゲームをやり続けていちゃダメだと突然スイッチをバンと入れたんです」

 小国は一気に全力を投じ始める。

「当時、仙台にはストリートミュージシャンがめっちゃいたんです。素晴らしいけど、でも知られてない。その若い人たちの短い動画をつくってインターネットにあげたら、面白いんじゃないかと思ったんです」

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