エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 今、永田町は緊張感にあふれているでしょう。次は自分かとヒヤヒヤしている人もいるはずです。自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題。岸田文雄首相は「政府・与党をあげて高い緊張感を持って臨む」と述べました。

「緊張感を持って」は政治家がよく使う表現ですね。職場の会議や訓示でもお馴染みでしょう。話す方も聴く方も、単なる意気込みの表明であることはわかっています。子どもの「頑張(がんば)りたいです」と同じです。今はまだ頑張っていないけれども、この先は頑張ろうと思う。そう宣言して話を締めくくると、前向きで立派な雰囲気になります。

 政治家は「しっかりと」も多用します。しっかりと、取り組みたい。しっかりと、やらなくちゃいけない。頑張ろうと思っている雰囲気を力強く伝えています。

政治家が多用する意気込み表明の常套句に、中身は伴っているのか

 意気込みだけでその場をおさめる言い回しに「私たち自身なのだ話法」があります。報道番組のナレーションの末尾、キャスターのまとめのコメント、学校の作文や発表でもよく使われます。「こんな深刻な問題がある。それを問われているのは、私たち自身なのだ 完」。何かとんでもなく核心をついている感じがします。そうだ、「私たちみんな」で考えなきゃ。今度考えよう。そんな真面目な気分になり、意気込みは長くても10秒くらいで霧散します。憂鬱(ゆううつ)になることなく、大事なことを考えたぞという満足感だけを味わえるのです。

 この「問われているのは私たち自身なのだ話法」、政治家はあまりやらないですね。さすがに他人事感が強すぎると批判されそうだからでしょうか。緊張感、満足感、他人事感。そんな感じの雰囲気で、言葉がふわふわツルツル流れていきます。学校でも職場でも画面の中でも議会でも、意気込み表明の常套句が重々しく語られる。これがどうにも好きになれません。

AERA 2023年12月25日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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