がちゃがちゃした気配がぷんぷんの写真集だ。日本橋から京都までの86軒の床屋さんを撮影し、92枚の写真を掲載している。
 主人公は「店」の佇まい。ひやかしを「ぞめき」というのだそうだ。その言葉のように、ずけずけと覗き込んでいく。目につくのは黒いピアノ、やかんを載せたストーブ、片眼だけ墨の入ったダルマさん、女優のモノクロ写真、椅子の破れを補修したガムテープなど。年季が入り、いい具合にくたびれている。自然と子どものころに通った店を思い浮かべる。
 人間は登場させないポリシーと得心しかけるや、小型犬を連れたサンダル履きのオバチャンが現れる。店を遊び場にしている子どもたちも登場する。時間が止まったかのような昔のままの姿の写真集かと思うと、薄型テレビがデンと主張し、ギターや碁盤が我が物顔で写っている。現役感たっぷりのノイズに満ちている。
 写真集を閉じようとして、ようやく言葉に出会う。フリーランスから出版社勤務に転じた著者の「あとがき」の言い訳にひきつけられた。

週刊朝日 2015年7月17日号

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