“本気”に寄り添う先端技術
「だれでもピアノ」には、奏者の弾くテンポや打鍵の強弱に合わせて、伴奏が自動で追従するシステムが組み込まれている。ピアニストがゆっくり弾けばゆっくりと、強く弾けば強い音で伴奏が応えてくれる。その演奏に連動してペダルも自動で動く。
奏者がどんなテンポで、どんな強弱をつけて演奏しているかを機械が学習し、次のフレーズに入るタイミングを予想しながら、伴奏が自動で追従して演奏をする――基本的には、そのような発想でつくられたピアノである。
「だれでも第九」コンサートで、第1楽章と第2楽章を担うピアニストは東野寛子さん。生まれつき右手に欠指の障がいがある。大学在学中よりバレエ、ジャズダンス、声楽を学び、卒業後も表現活動を続けている。現在は日本初のソーシャルサーカスカンパニー「SLOW CIRCUS」のトレーナーとしても活動中だ。
米田さんの指揮に合わせて、ピアノを弾く東野さん。真剣な表情。ここまで懸命に練習を重ねてきたことが伝わってくる。だが時折、自動演奏に鍵盤を合わせるのが少し難しい箇所もあるようだ。
「もう一度、お願いします!」
オーケストラと合わせて、東野さんは粘り強くそのパッセージを繰り返す。合わなかった音がだんだんとひとつになっていく。