「だれでも第九」のピアニストたち。左から、宇佐美希和さん、東野寛子さん、古川結莉奈さん
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 この冬、これまでになかった「第九」の演奏会が開催される。その名も「だれでも第九」。このコンサートでは、ハンディキャップをもつ3人の女性ピアニストが、プロのオーケストラ(横浜シンフォニエッタ)、合唱団(東京混声合唱団)との共演を果たす。彼女たちを支えるのは、AI(人工知能)を用いた「だれでもピアノ」という楽器。障がいなどで、普通のピアノを弾くことが難しい人たちも演奏を楽しむことができるようにと開発されたちょっと特別なピアノで、かつてない「第九」を奏でる。

【写真】右手だけでも「第九」は弾ける! 練習に励む宇佐美希和さん

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 11月下旬。音楽ホールの一室で、ある「第九」コンサートのリハーサルが行われていた。部屋の中央にはグランドピアノが置かれている。

「まずは、頭から通してみましょう」

 指揮者の米田覚士さんが皆に声をかける。ベートーヴェン「交響曲第九番」第1楽章がはじまる。

 日本では師走の風物詩としておなじみの「第九」だが、今回はピアノを中心とした編曲となっている。この演奏会で用いられるピアノには、AIの技術が活用されている。「だれでもピアノ」と名付けられたこのピアノは、今回のコンサートの実現に欠かせない存在だ。

 本番で演奏する3人の女性ピアニストたちは、それぞれにハンディキャップがある。車いすに腰掛けた状態で、あるいはストレッチャーに横になったまま演奏するピアニストも出演する。両手での演奏は可能だが、右手に障がいをもつ人もいる。

 彼女らがピアノでクラシック曲を弾くこと、ましてや、オーケストラとの共演など、以前であれば難しかっただろう。だが、ヤマハが東京藝術大学と共同で開発した「だれでもピアノ」のアシストを得て、3人のピアニストが第九を演奏、プロのオーケストラや合唱団とハーモニーを奏でるというプロジェクトが始動した。半年近くの猛特訓を重ね、この日はピアノと弦楽器、合唱を合わせての初のリハーサルとなった。

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