角野栄子(かどの・えいこ)/児童文学作家。1970年、作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』は89年にジブリ映画化。2018年、国際アンデルセン賞作家賞を受賞(撮影/写真映像部・高野楓菜)
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 11月に開館した「魔法の文学館」には児童文学作家の角野栄子さんが選んだ約1万冊の本が並ぶ。角野さんに影響を与えた本とは? AERA 2023年12月18日号より。

【写真】2階読書スペース。大きな窓から自然光が降り注ぐ

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 私が子どもの頃は、戦争の真っただ中。子ども向け、幼児向けの本というものがなくて、岩波文庫などを読むしかありませんでした。そんな中で記憶に残っているのが『アラビアン・ナイト』の抄訳。特に覚えているのが「アリババと40人の盗賊」です。盗賊団が扉に目印をつけていくんだけど、賢い召使の女の子が他の家の扉にも同じ目印をつけてどの家かわからなくする。その女の子の賢さ、機転の良さにとても感心したのを覚えています。「アラジンと魔法のランプ」も読みましたが、ランプをキュッキュッと磨いて願いを言えばなんでもかなえてくれる……。「なんか嘘くさい」と思ってしまって(笑)。なんでも魔法でできてしまうのは面白くない──この思いは、私の書いた『魔女の宅急便』のキキにも反映されています。魔法を使うけれども、魔法でなんでもできるわけではない。つながっているんですね。

2階読書スペース。大きな窓から自然光が降り注ぐ。いちご色のうさぎの耳が付いたような形の椅子は、読書する子どものために作られた(撮影/写真映像部・高野楓菜)

ハッピーエンドが良い

 10歳のときに戦争が終わったんですが、終戦直前に読んだのがバーネットの『小公女』です。運命が突然変わる話ですが「運命は生き方で変えられるのか」と、自分の境遇に重ねて感銘を受けたものです。

 終戦後に読んで印象に残っているのが、竹山道雄の『ビルマの竪琴』です。戦闘で多くの兵士が死んでいくのをまざまざと見た水島上等兵はビルマで僧侶になる。仲間に「水島、一緒に日本に帰ろう」と言われるけれど帰らない。死んでいった者たちをビルマに留まって悼み続けようと決心するわけです。私は「仲間と一緒に日本へ帰ればいいのに」と思ってしまいました。だって、水島はビルマでひとりぼっちになってしまう。なんて寂しいことだろうと。魂を鎮めようという気持ちは日本に帰っても持ち続けられるのに。

 私、悲しい終わり方をするお話が嫌いなんです。なので、アンデルセン童話も、あまり好きになれませんでした。「赤い靴」の主人公は、踊ることを止められず足を切ることになってしまう。「人魚姫」も助けた王子様に裏切られて海の泡になってしまう……。私は「物語はハッピーエンドが良い」と常々思っているんです。私が書くものは、『魔女の宅急便』や「小さなおばけ」シリーズ、『おだんごスープ』も、主人公や登場人物は、悲しいことや失敗や挫折があっても最後は幸せになる、笑顔になる。それは私がハッピーエンドが好きだからなんですね。

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