角野さん自身が世界中で集めたり、人からプレゼントされたりした魔女の人形。展示室の天井でまるで飛んでいるかのように来館者を見下ろす(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 大学では英文科でした。担当教授がサマセット・モームをたくさん翻訳していた龍口直太郎先生だったこともあって、『コスモポリタンズ』という短編集を皮切りにモームはたくさん読みました。文体がシンプルで湿っぽくないところが私には合っていました。

 その頃はアメリカ文学もかなり多く日本に紹介されるようになっていました。私とそんなに年の変わらないトルーマン・カポーティがデビュー作を発表して翻訳されて日本で発売された時は衝撃的でした。本の背表紙にカポーティの顔写真が載っていてね。それが非常に美しくて(笑)。同世代の青年がこんな小説を書いているという事実にも関心を抱かずにはいられませんでした。

カフェにはオープンテラスも併設されている(撮影/写真映像部・高野楓菜)

かばんに全集詰め渡伯

 結婚後、24歳でブラジルに行くことになりました。当時は外国に渡る際、荷物制限があって持っていける物は限られていたけれど、『モーム全集』だけはかばんに詰めていきました。

 日本に帰国してから、私は児童文学を書くようになります。そこで、自分が子ども向けの本を読んでこなかったことにはたと気がついてミルンの『クマのプーさん』やルイスの『不思議の国のアリス』、日本なら新美南吉や宮沢賢治を一生懸命読みました。『風の又三郎』の擬音の使い方には感心しましたね。

魔女キキの相棒・黒猫のジジが描かれた本棚(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 日本の児童文学には、平和の大切さやイデオロギーを作品に込めて、「こう読みましょう」という作品がたくさんあるように思います。でも私は作品を書く上で「こういうテーマで、こういう結末で書こう」と決めて書いたことはありません。読む人の想像力を奪うことになるからです。

「魔法の文学館」は物語を中心に置いていますが、並べ方はバラバラです。ジャンルや時代で分類して並べていません。これは「自分の読む本は、自由に見つけてほしい」という思いからです。

 私の読書歴を振り返ってみると、何ものにも縛られず読みたい本を読んできたのが良かったと思うんです。「魔法の文学館」を訪れる方にも、自由に気になった本を手にしてほしいですね。

(構成/編集部・工藤早春)

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