「真面目な科学者たちの奇態な実験」という副題が素晴らしい。本書では1600年以降の科学者たちの100の実験を取り上げているのだが、驚くほど怪しい実験ばかりなのである。
 処刑された囚人の首を生きた犬の循環系につなごうとしたり、死産児の遺体を放置して屍肉食の昆虫がたかる順序を調べたり、黄熱病の感染経路の研究のために患者の尿を塗り、嘔吐物を摂取したり。常軌を逸した行動ばかりだが、見え隠れするのは研究者たちの自説への自負である。
 とはいえ、腹を抱えてしまう実験も少なくない。デニス・ミドルミストは個人の私有空間を調べるのに小便器で用を足している人間の隣に人を立たせた。デヴィッド・L・エクスラインらは性犯罪の捜査に役立てようと、性行為の間に起こる陰毛の移行本数を調べた。
 価値を見出せない試みが多いのは事実だ。著者も「無意味なものもあるのは否定しない」とまで言い切る。ただ、常識外の彼らの実験の積み重ねがなければ、我々の暮らしが別の形になっていたのもまた事実だろう。

週刊朝日 2015年7月3日号

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