AERA 2023年12月11日号より

世間の常識「なんやそれ」 ひたすら追いかけた数字

 創業者の兼重宏行前社長が一代で、中古車販売大手に成長させたBMには、視野が狭まり得る環境があった。

「カリスマ社長が率いる組織は、動きが速いため、うまくいけば急成長しますが、その半面、独裁体制で、コンプライアンス意識が薄いことがあります」(同)

 特別調査委員会の調査報告書によると、成績不良の工場長が、ある日突然降格処分になり、理由さえ明確に伝えられなかった。有無を言わせない降格処分が頻発することで、従業員は経営陣の意向に盲従し、忖度する企業風土になった。常に経営陣の顔色をうかがいながら、体裁を取り繕っていた。調査報告書は、不祥事が起きた背景をこのように指摘した。

 大室さんは言う。

「社員は萎縮して、精神的に不安定だったと思います」

 その上で大室さんは、虐待を受けた子どもと状況は似ていると話す。

「実際に殴られたかどうかの問題ではなく、いつ殴られるかわからない状況だと、疑心暗鬼になります。BMの社員も同じはずです」

 社員の視野を狭めるのは、調査報告書が指摘した強権的な行動だけではない。ささいなことで、社員は精神的に追い込まれるという。

「社員は経営者の言葉の文脈を読むんです」(大室さん)

 例えば、経営者が「コンプライアンスを大事に」と言ったとしても、その発言に本気度が感じられなければ、社員が感づいてしまう。社員は「そうは言うものの、正直、利益の方が大事なんだ」「コンプライアンス的にはだめでも、長時間の残業も仕方ない」と思ってしまう。そして、コンプライアンスを無視しても、成果を出すことが、社内の「掟」だと解釈され、次第に常識が常識でなくなっていく。

 前出のBMの元社員も「世間の常識であっても、営業中心の会社では『なんやそれ』って感じでひたすら数字を追いかけるものです」と振り返る。

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