2012年に生徒1人から始めた無料塾「八王子つばめ塾」は、半年後には生徒が6人に増えた。このとき、創始者の小宮位之氏は、正社員の仕事を辞めて塾の運営に専念すると決意を固めた。それからは妻と3人の幼子を養うために、複数のアルバイトと塾運営を掛け持ちする日々が始まる。貧困に苦しむ子どもを救うために無料塾を立ち上げた本人が貧困に陥ってしまうというパラドックス――だが、この苦しい生活の先にあったのは、1年後に大きく成長した「八王子つばめ塾」の姿だった。『「無料塾」という生き方』(ソシム)より一部を抜粋、編集して掲載する。
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育った場所へ戻ってくる「つばめ」
なぜ「つばめ」なのかと、よく質問されます。実は小さな頃から住んでいた都営団地のすぐ近くにツバメの巣があって、親鳥が子育てをしていたのです。その様子を毎年観察し、幼心にツバメはかわいいな、と思いながら私は育ちました。
ツバメはご存じのとおり渡り鳥で、春に生まれた雛が大きくなり、夏になると巣立って海を越えて南の国々へと旅立ちます。そこで成長したツバメは、また翌年の春に日本へ戻ってくるといいます。その習性と無料塾で実現したいこととが、パッと重なり、これはピッタリだと思ったのです。
八王子つばめ塾は、100%ボランティアで構成されている組織です。その原動力の1つは、ボランティアによる学習支援を受けた子どもたちが大きくなって、またボランティアというフィールドに戻ってきてもらいたいという思いです。
同じ巣や同じ地域でなくても、教育ボランティアでなくてもかまいません。それぞれが成長した先でそれぞれが行えるボランティアをしてもらうこと。自分から人のために行動しようと思ってもらうこと。これこそが私たちの理念であり、それを実現してもらいたいという願いを込めて、「八王子つばめ塾」と名付けたのです。