ただし、「標準治療ができるなら、まずは標準治療をしっかりおこなうことが大事」と若尾医師は話します。標準治療の効果が得られない場合や、長く治療するうちに薬の効果が落ちてきた場合などに、選択肢の一つとして検討してもいいでしょう。また、注意点もあります。

「臨床試験は、正確に治療効果を確認することが必要なため、受けられる人、受けられない人の条件がとても厳しく定められています。希望しても受けられないこともありますし、受けたからといって必ず効果が得られるとは限りません。副作用については厳格に監視しているので心配しすぎることはありませんが、研究段階の薬ですので、リスクがあることは理解しておく必要があります」(若尾医師)

キーワード【分子標的薬/免疫チェックポイント阻害薬】

従来の抗がん剤とは異なるメカニズムのがん薬物治療薬。分子標的薬は、特定のたんぱくを目印にがん細胞だけを狙って攻撃する新しいタイプの薬。免疫チェックポイント阻害薬は、からだにもともと備わっている免疫が、がん細胞を攻撃する力を回復するよう作用する薬。

 従来の抗がん剤は、細胞が増えるしくみを妨害してがん細胞を攻撃する薬で、がん細胞だけでなく毛根など活発に増殖する状態にある正常な細胞も一緒に攻撃します。一方、分子標的薬は、がん細胞の表面にある、細胞の増殖に関わるたんぱく質などをピンポイントで狙って攻撃する薬です。また、免疫チェックポイント阻害薬は、免疫の働きを高めてがん細胞を攻撃できるようにする薬です。

「がん細胞には、自分が攻撃されるのを防ぐために免疫細胞と結びつき、免疫の働きにブレーキをかけるものがあります。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞と免疫細胞の結びつきを防ぎ、免疫のブレーキを解除してがん細胞を攻撃できるようにするのです」(若尾医師)

 分子標的薬は誰でも使えるものではなく、がん細胞に特定の遺伝子異常がある場合に、それに合う薬を使うことになります。そのため、まずは遺伝子変異があるかどうかの検査が必要です。

 また、従来の抗がん剤とは異なる働きでがん細胞を攻撃する薬のため、抗がん剤のような脱毛や吐き気などの副作用はみられませんが、それぞれで異なる副作用が起こることもあります。医師や薬剤師の説明をよく聞き、いつもと違う症状がみられた場合はすぐ相談しましょう。

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薬で目に見えないがん細胞を攻撃