そうか、あの作品で話されていた雪国の言葉は、新潟のものだったのか。『チボー家〜』をめぐる連想は、郷静子『れくいえむ』へと続く。この作品にも『チボー家〜』を読む、二人の少女が登場するからだ。

「自分ひとりだと記憶の底に沈んだままの出来事が、友だちと話していると思い出すことがありますよね。本好きの友人とおしゃべりしていると、『あの本とこの本って似てない?』とか、個人的な文脈について話すでしょう。そういう意味でも、本に書いたのは個人的な内容なんですよ」

 こうした連想は、結核をめぐる林芙美子と郷静子、いぬいとみこさんに出会ったときのこと──と、続いていく。

「前作で入れられなかった本のことも、書きました。朝鮮人が登場する後藤郁子と茨木のり子の詩について。韓国最高の文学賞に名を残す、李箱のこと。森村桂やマダム・マサコ、森茉莉などについて書いた後半は楽しかったですね」

 斎藤さんがとりあげる本のつながりは、星座を見つけるような高揚感がある。

「本を関連づけて読むのは、私だけではないでしょう。どんな人にも、その人なりの取り換えがきかない文脈があって、そこに連なる本があるはずなんです。私の本の好みは偏っていて、古い本のことばかり書きましたが、どんなに古い本にも今につながる栞がはさまっているんですよね」

 誰でもその人だけの「本の星座」を持っている。自分の人生につながる本が、そこで輝いているだろう。

(ライター・矢内裕子)

AERA 2023年12月4日号

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