「死刑」になる。あの父親だったら時間をかけなぶり殺すはず。長く苦しむくらいなら、自分で自分の命を絶ったほうが楽だ。そう思い、早稲田大学に落ちたとわかった後、公園のトイレで首をつり自殺を試みた。だが未遂に終わり、その足で家出をした。しかし、母親に見つかり自宅に連れ戻された。
ただ、家出を機に、父親からの暴力はぴたりとやみ、腫れ物に触るかのように接してくるようになった。世間体を気にする父親は、「子どもを自殺に追い込んだ父親」になることを恐れたのかもしれないという。大学のことも言わなくなり、伊藤さんは1年の浪人を経て、自分で決めた地方の国立大学に進学し、大学院まで進んだ。今はライターとして活躍する。
父親とは一切連絡を絶っている。だが、今も当時のことがフラッシュバックする。殴られ、木刀で殴打される悪夢も見る。うつを発症し、希死念慮も消えない。
父親がやってきたことは、自分への憎しみからではなく愛情からだとわかっている。しかし、ここまで自分を苦しめ、生きづらさから逃れられない原因をつくった父親を、決して許すことはできない。殺したい。殺せないのなら、せめて早く死んでほしい。そう思い、のたうち回ることがある。伊藤さんは言う。
「あの親父(おやじ)がこの世からいなくなってくれないと、安心できません」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年12月4日号より抜粋