阪神がリスペクトを
さらなる災難が降りかかる。2006年、オリックス・バファローズの正統なルーツだった阪急ブレーブスの親会社、阪急電鉄がこともあろうに阪神電鉄と経営統合して阪急阪神ホールディングスになったのだ。今、オリックスの試合では近鉄のユニフォームのファンはちらほら見るが、阪急のユニは皆無だ。
そんな紆余曲折を経ても、まだ「オリックスファンや」という人は、筋金入りだ。プロ野球にも深い造詣がある人々が多いのだ。
阪神甲子園球場と京セラドーム大阪は路線名こそ阪神なんば線、阪神本線と変わるが、一本の路線でつながり、そのまま近鉄奈良線に乗り入れている。
阪神とオリックスの試合があるときは、両チームのファンが「呉越同舟」よろしく乗り合わせる。試合が終わって甲子園駅から乗った阪神ファンは「ドーム前駅」で、オリックスファンが乗り込んでくると、薄目を開けて「なんやオリックスかい、けっ」みたいな視線を飛ばしていたものだ。
しかしオリックスが、阪神が一度もしたことがないリーグ3連覇をした昨今は、「あ、オリックスさんでっか、お疲れさんで」みたいに変わった印象だ。多少のリスペクトが生じてきたのだ。
今年の日本シリーズ。阪神は初戦でオリックスの大エース・山本由伸を攻略したが、山本は第6戦で再び登板。阪神の厳しい攻めをしのぎ最終回、「Frontier」という登場曲を背にマウンドに上がった山本の雄姿には、三塁側の阪神ファンからもため息が上がった。
山本が138球で完投すると虎の法被のおっさんも惜しみない拍手を送った。
セ・パ同日は史上初
さて、優勝パレードである。1985年の優勝時には「御堂筋のドン突き(正面)の大阪球場は誰の本拠地やと思てるねん」と南海ホークスファンに凄まれて御堂筋パレードを断念したと言われた(公式には「安全面などの諸問題」が理由)阪神だが、ホークスが福岡に去ったのちの2003年、05年と御堂筋パレードを実施した。昨年はオリックスが初めて御堂筋パレードを実施したが、京都の時代祭行列みたいに穏やかなものだった。
ファンからは「日本シリーズで勝った方がパレードするのはどや?」みたいな声も上がったが、結局、午前は阪神が神戸、オリックスが大阪、反対に午後は阪神が大阪、オリックスが神戸で両チームが仲良くパレードした。セ・パの優勝球団が同日に優勝パレードしたのは史上初。
沿道は圧倒的に阪神ファンの方が多かったようだが、彼らはオリックスのパレードにも拍手を送った。阪神ファンもここへきて、ようやく「関西のもう一つのチーム」に気が付いたのだろう。(ライター・広尾晃)
※AERA 2023年12月4日号